東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 私説・論説室から > 記事

ここから本文

【私説・論説室から】

南相馬への贈り物

 贈り物を選ぶのは難しい。それが本なら、なおさらだ。相手の読書の趣味に合うだろうか。感動を共有してもらえるか。

 日本国際児童図書評議会の攪上(かくあげ)久子さん(65)も、迷ったそうだ。原発事故の被災地、福島県南相馬市内に、毎月絵本を贈る活動の担当者である。八年間で二千八百冊。中でも「ちいさいおうち」には悩んだ。米国作家の一九四二年の作品である。

 昔々、田舎の静かな丘の上に小さいおうちがあった。建てた人は言った。

 「どんなにたくさんお金をくれると言われても、この家を売ることはできないぞ。孫の孫の、そのまた孫の時まで、この家はきっと立派に立っているだろう」

 しかし都市化が進み、空気はほこりと煙に汚れた。おうちは住む人がいなくなり、顧みられなくなった…。

 物語の前半は、原発事故で家を失った人々の無念さが重なり胸が詰まるよう。ただ、最後におうちは救われ、幸せを取り戻す。

 絵本を受け取った南相馬市の梶田千賀子さん(68)からお礼の手紙が届いたという。事故後、地域を巡る移動図書館を始めた女性だ。

 「今後の私を後押ししてくれた絵本になりました。絵本は宝物です」

 読み手が正面から向き合ってくれるなら、後はその人の良心と判断に任せればいい。それが贈り物だと教えられた。 (臼井康兆)

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報