東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 私説・論説室から > 記事

ここから本文

【私説・論説室から】

雪虫が舞う街で

 先月、お世話になった人の通夜に参列するため、初任地の岐阜県高山市を訪れた。市役所の広報担当者だった彼から、行政の情報だけでなく、さまざまなことを教わった。「はんちくたい」などの飛騨弁や、赤かぶを漬けたり酒を仕込んだりの季節の風物詩…。地域への扉を開いてくれた恩人だった。結婚式の司会までしてもらった(別れてしまって申し訳なかったけれど)。

 久々に訪れた街は、外国人観光客が大勢訪れるようになって、大きく変化していた。古い木造家屋の酒蔵や飲食店が並ぶ通りには、英語や中国語の看板が掲げられていた。駅前からは、高山と同じように古い町並みが残る馬籠(岐阜県)や富士山行きの高速バスが出ていた。外国人観光客の存在が新たな動脈を生み出したということなのだろう。

 翌日の早朝、ホテルを出た。街は変わっても、秋の冷気は新人記者だった頃と同じだった。これから長く凍える冬がやってくることを予告するような、寂しさと諦めを含んだ肌触り。空気がそんな感じになると、雪虫と呼ばれる小さな白い羽虫が舞い、雪を連れてくる。そのことを教えてくれたのも彼だった。

 年を重ねるというのは、幾人もの大切な人の思い出を自分の中に積み重ねていく営みでもあると、ふと思った。惰性で雑に生きてしまいがちな自分の輪郭を、懐かしい街の冷気が整えてくれた。 (早川由紀美)

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報