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【私説・論説室から】

台風の日の「恩送り」

 「恩送り」という言葉がある。受けた親切を相手に返すのでなく、別の誰かに送ることだ。東京都世田谷区の池末有貴生(いけすえゆきお)さん(42)の話を聞き、脳裏に浮かんだ。

 池末さんは、娘(6つ)が重い脳の病気と闘っている。痰(たん)の吸引に投薬…。在宅での医療ケアは終わりがない。「孤独で長いトンネルを歩いているようだった」と振り返る。

 三年前、近くの国立成育医療研究センターに「もみじの家」ができた。重症児と家族のの短期滞在施設で、医療ケアをスタッフが代行してくれる。キッズファム財団のボランティアも支援してくれる。

 何度か利用し、池末さんは「助けてくれる人がいる。守られている」と思うようになった。いつしか心に余裕ができていた。

 台風19号に襲われた先月十二日。増水する多摩川沿いに住む知人一家が、行政の避難所に向かうことを知る。「うちに来てもらおう」。思い切って誘い、1LDKのマンションで二家族が一晩過ごした。

 支えられる側から、支える側へ。池末さんに新しい感覚が生まれたという。「弱々しかった私たち一家は、もみじの家のおかげで強くなれた」

 ささやかな一歩かもしれない。でも、将来誰かが受け取る「恩」は限りないと感じる。こうした善意の連鎖が人の絆を豊かにし、社会を強くすると信じるから。 (臼井康兆)

 

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