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【私説・論説室から】

春の巣立ちを前に

 高校の卒業証書、どこにしまっておいたっけ? 田舎の実家の押し入れだと思うが、自信はない。なにせ、もらってから三十五年間顧みることがなかった。

 そんなことを考えたのは、高校三年向けのあるセミナーの「修了式」があったからだ。

 一人暮らしに必要な知識を学ぶ−。こんな半年間の日程を終え、修了証を受け取ったのは、虐待や育児放棄などで児童養護施設などに身を寄せる生徒たち。

 施設は原則、高校卒業で退所しなければならない。頼る大人もいない中、自活するのは本当に大変だろう。スキルを身に付けてもらおうと、NPO法人ブリッジフォースマイルがセミナーを開いている。

 家探しをテーマにした一日を取材させてもらった。部屋を借りる初期費用を計算したり「連帯保証人」について学んだり。生徒たちのあどけない表情が切なかった。

 本年度は、首都圏中心に約二百六十人が受講した。就職しても離職や生活破綻に陥る子が後を絶たないが、ボランティアがマンツーマンで相談に乗り、卒業後も支えるそうだ。企業の資金援助も広がっている。

 親の愛情には縁遠くても、見守ろうという社会の意志を感じてもらえたら…。手にした修了証は単なる紙切れではなく、巣立ち後のお守り代わりだと思いたい。そこに、大人たちの善意が詰まっている。 (臼井康兆)

 

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