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【私説・論説室から】

被災地の声聞きたかった

 政府が主催する東日本大震災の追悼式が中止になった。新型コロナウイルスの感染拡大防止策だが、リスクを極力減らして開催する方法はなかったのか。現に被災地では、規模を縮小して行う自治体もある。

 式典で遺族代表が語り掛ける言葉に、今年も耳を傾けたかった。宮城県石巻市で遺児と向き合う大学二年大槻晃弘さん(21)に会い、その思いを強くした。

 大槻さんは昨年、「あしなが育英会」のボランティア講座を受けた。遺児と遊び、言葉を受け止め、肯定してあげる。「こちらのペースで質問したり、先回りして助言したりせず、受けの姿勢で臨んでいます」

 実は、大槻さん自身も遺児である。小学六年の時、母京子さん=当時(43)=と津波で流され、一人救助された。「今すぐ裏山に逃げようと、もっと強く言えば、お母さんは助かったかもしれない」。母の死を口にするのは苦しく、人に話せなかった。

 救いは、当時のボランティアや同じ境遇の遺児と過ごした時間だったという。自分から話せるまで、言わないでいい。安心できる人間関係がやがて口を開かせ、現在のボランティアにつながった。

 吐き出せないつらさは、放置して凝固すると、その後の人生に影を落とすと思う。あの日から九年。息長く寄り添い、耳を傾け続ける人が必要だ。 (臼井康兆)

 

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