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<国語教育に文学は不要か>(上) 「思考や表現力ゆがめる恐れ」 日大文理学部長 紅野謙介さん

 二〇二二年度に変わる高校の学習指導要領や、二一年から大学入試センター試験に代わる大学入学共通テストの国語で、実用が重視され、文学が激減すると懸念が高まっている。国語教育をどう考えるか、二回にわたり識者に聞く。(鈴木久美子)

日大文理学部長の紅野謙介さん

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◆思考力・表現力より情報処理能力重視に

 −高校の国語はどう変わりますか。

 今進行しているのは戦後最大、高校・大学・入学選抜の三位一体の改革です。新学習指導要領は「主体的・対話的で深い学び」など、誰も反論のしようのない抽象的な言葉で示されています。今の段階で、具体論を示す最適な公的資料が大学入学共通テストのサンプル問題とプレテスト。公表された国語の問題を検討した結果、相当に問題があり、日本の十代の思考力、判断力、表現力をゆがめてしまうと危機感を持ちました。

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 −どんな問題が。

 大きく二つあり、一つは記述式問題が追加されること。採点基準が明確でなく、あいまいな部分が残るために、生徒が自己採点できない。もう一つは複数の資料を、図表やグラフも入れて五、六種類の情報を読み込み設問に答えるやり方。無理やり推し進める結果、一つ一つをきちんと解読できないまま、短時間でキーワードをぱっとつまんで解答を探す方向にいくだろう。情報処理能力だけを高めることになる。こういう言葉への接し方、読み方を推奨していいのでしょうか。

 文学作品なら一つの教材で丁寧に読み込めます。例えば高校一年で定番の「羅生門」であれば、老婆の言葉が主人公の下人を動かし、老婆も蛇を干し魚として売る女の言葉を取り込み、互いの世界観が交錯する。一つの教材で、それぞれの立場から見たらどうかと話し合いができます。評論やエッセーも引用や他者の言葉などを入れて組み立てられています。

◆現代国語、小説や詩歌なく、法律や契約文書に

 −文学の扱いは。

 必修の現代の国語は、小説などのフィクションや詩歌などは入りません。実用的な文章を中心とした教材で教科書を作ることが実質的に支持されている状態です。法律や契約を巡る文章です。

 大学入学共通テストの記述式のサンプル問題も自治体の景観保護のガイドラインや駐車場の契約、プレテストは高校の生徒会の部活動規約、著作権法。新指導要領を推進する方たちが出した指導プランには特別予算の申請書やエントリーシートの書き方もあります。

 もう一つの必修、言語文化は七割が古典。文法はあまりやらず、季節感など伝統的な物事の考え方を身に付けましょうと強調し、一種の「雰囲気文化ナショナリズム」です。残り三割が近代以降の散文です。近代の評論、小説を読む機会は圧倒的に減ると思います。

 −今までが文学偏重だったのでは?

 必ずしもあたらない。小説が必ずセンター試験の問題になっていたということもない。教科書も三十編のうち小説は五、六編です。

◆変質の理由は政財界の要望

 −なぜ実用性にシフトしているのですか?

 政財界の要望でしょう。それは、日本の経済的地位の失墜と世界的にリーダーシップをとれない混迷の表れ。アマゾンにもグーグルにもなれない現状に悲鳴をあげて、それを教育のせいにする。昔から繰り返されている問題です。

 −AIの発達や少子高齢化など「予測不能な」時代に対応するための改革とされます。

 二十年も前から分かっていたことで、むしろ、不安をあおり立てるための言葉になっていませんかね。

 大切なのは今までやってきたことの中にある確実に大事な部分を伸ばすこと。みんなで議論し、より現実に即した改革案を練るプロセスがなくなり、現場が置き去りにされ、あるアイデアだけがどんどん実現に向かっているのが現状です。

(こうの・けんすけ)1956年生まれ。日本大文理学部長。専攻は日本近代文学。

(2019年9月17日夕刊文化面に掲載)

 

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