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【土曜訪問】

相手を一発でつぶす 日本棋院の新人賞に 上野愛咲美(あさみ)さん(囲碁・女流棋聖)

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 今、国内囲碁界で最も勢いのある女性棋士と言っても過言ではない。昨年活躍した日本棋院の所属棋士に贈られる「第五十二回棋道賞」で新人賞に輝いた。昨年一月、史上最年少の十六歳三カ月で女流棋聖位を獲得。年間三十五勝を挙げて同棋院の「勝ち星ランキング」でもベストテンに入った。座右の銘「愉快活発」さながら、盤上の着手は伸び伸びとして、力強い。見る者も「愉快」にさせる囲碁である。

 その名を一躍、全国のファンの間で高めたのが昨年、初出場したNHK杯トーナメント。一回戦で本因坊戦リーグ五期在籍の実力者、蘇耀国(そようこく)九段(39)と対戦。盤面全体に広がる激戦を繰り広げた末、大石を仕留めて勝利した。「テレビ放送を見たファンの方々から、『すごいね』とか『戦いが面白かった』と声を掛けてもらえて、とてもうれしかった」と、ほほ笑みながら振り返る。敗れた二回戦の許家元(きょかげん)碁聖(21)戦でも、臆せず堂々と戦いを挑んだ。

 「私、置き碁の時から上手(うわて)の石を取りに行くのが好きでした。相手を一発でつぶしにいく戦いの碁ですね」

 おっとりした語り口とは好対照の「ハンマーを振り回したよう」とも評される攻撃型の棋風。十四歳でプロ入り後も、最後まで打ち続けて地を計算する「作り碁」は少なく、どちらかが途中で負けを認める「中押(ちゅうお)し」での決着が二十九局も続いたことがある。昨年四月の女性国際棋戦「呉清源杯」では、かつて世界最強の女性棋士と謳(うた)われた中国の〓廼偉(ぜいのい)九段(55)に「中押し」勝ち。「本当に石が取れてしまいびっくり。自信もつきました」

 年明け後も十一勝二敗と絶好調。一月に女性の第一人者、藤沢里菜(りな)女流三冠(20)をストレートで退けて女流棋聖位を防衛、二月には第四十四期棋聖戦ファーストトーナメント予選を勝ち抜き、女流名人九連覇の実績を持つ謝依旻(しぇいいみん)六段(29)とともにCリーグ入りを決めた。過去、女性のCリーグ入りは第四十期の鈴木歩(あゆみ)六段(35)=現七段=ただ一人。「(Cリーグで)強い人とたくさん打てるので、めちゃめちゃうれしかったです」と声を弾ませた。

 タイトル保持者のため、昨年から女性国際棋戦への出場機会も増えた。男性同様、女性も中国、韓国の後塵(こうじん)を拝す日本囲碁界。「いろいろなタイプの棋士と打てるのは新鮮で、負けても勉強になることが多い。でもやっぱり勝ちたい。日本の棋士が勝てば盛り上がりますしね」

 東京都出身で、現在、高校の通信課程に在籍。パソコンを駆使して自宅で勉学に励む一方、囲碁は七つもの研究会に入って腕を磨いている。「家にこもっているとだらけてしまうタイプなので(笑)…。一日があっという間に過ぎていく感じです」

 二十歳未満の棋士十六人がトーナメントで争う国際棋戦「第六回グロービス杯世界囲碁U−20」が四月十九日開幕し、芝野虎丸七段(19)、六浦(むつうら)雄太七段(19)、牛栄子(にゅうえいこ)二段(19)ら六人の日本代表の一員として初出場する。「いつも記録係をしていた大会。やっと昇格できました」とおどけた口調で語り、「ファンに楽しんでもらえるような面白い碁を打ちたい」と続けた。

 グロービス杯に先立つ四月一日、“天才少女”の呼び声高い仲邑菫(なかむらすみれ)さんが史上最年少の十歳でプロ入り。実妹、梨紗(りさ)さん(12)も史上三番目の若さでプロ入りを果たし、初々しい女性棋士が同時に誕生する。

 国内の囲碁界で姉妹棋士は四組目。上野姉妹の師匠、藤沢一就(かずなり)八段(54)は、梨紗さんの棋風について「ボクシングで言えば、ジャブやフックを打ちながらどんどん前に出て行くファイター」と評する。姉と同様、力戦派のようだ。姉妹でタイトルを争う日がやがて来るかもしれない。

 仲邑さんは言うに及ばず、妹のプロ入りも大きな刺激になることは想像に難くない。「負けたくはないです…。負けないように頑張るだけです」と力を込めた。 (安田信博)

※〓は、くさかんむりに内の人が入

 

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