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【土曜訪問】

人類衰退後の世界描く 『ロボ・サピエンス前史』が話題 島田虎之介さん(漫画家)

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 二〇一九年の漫画界を代表する作品の一つが、上下巻で昨夏刊行された『ロボ・サピエンス前史』(講談社)だ。人知を超えた存在となっていくロボットたちの創世神話を、二十万年以上の時間軸で描いた壮大なSF作品。年間ベスト作品に挙げる評論家も多い。

 作者は島田虎之介さん(58)。「自分の作品の中で一番、手塚治虫的かな、と思います」。講談社のモーニング編集部でこう語った。

 『ロボ・サピエンス前史』は、二十一世紀初頭の原発事故を起点にロボットたちの歴史を描く。核廃棄物を二十五万年かけて無害化する地下処分場の管理人を任されたマリア。クロエとトビーは、地球に帰ることがほぼ不可能な宇宙探査を命じられる。そして、人間並みの自由を保障された伊藤サチオ。人類が徐々に衰退する中、半永久的な「命」を持つ彼らは、それぞれの時間を生きる。

 テーマや題材は、「漫画の神様」と呼ばれ、『鉄腕アトム』など数々の作品で独自の未来像を描いた手塚さんが半世紀前に発表した『火の鳥 未来編』を連想させる。人工知能(AI)の暴走による核戦争で人類が滅亡した後、長い進化の歴史を経て、再び人類が誕生するまでを描いた名作だ。

 「前々から映画『ブレードランナー』のようなSFやハードボイルドミステリーを描いてみたくて。物語を考えるうちに、これは手塚的だな、と」。手塚作品の『やけっぱちのマリア』『W3』から名前や造形を引用した人物も登場する。

 ただ、二人の作品は対照的でもある。愚かな人類文明への警告として読める『火の鳥』に対し、『ロボ・サピエンス前史』に悲壮感はない。「仮に一万年後に人類が滅亡するとしても、別に悲劇ではないでしょう。恐竜の時代にも人類はいなかったんだから」

 手塚作品の特徴は「登場人物に『異常』と言えるほど血が通っていること」だという。「『ロボ・サピエンス前史』のロボットたちも表情はあまり変えませんが、やはり血が通ったものとして読めるはずです」。例えば、彼らはデータを交換するために互いのほおに触れる。まるで心を通わせ合うように。「いくつかのシーンは完全にメロドラマとして描いています」。人類が滅びようとも、限りなく人間的なロボットたちが歴史を引き継ぐ姿には、不思議な解放感さえ漂う。

 実は、熱心な手塚ファンではなかったという。「だから影響を受けたというより、元々の資質が似ていたのだと思う。ファンだったのは赤塚不二夫ですが、中学生になったあたりで漫画はあまり読まなくなりました」。一方、若い頃から映画好きで、中央大で英文学を学んだ後、CM制作会社で働いたことも。本格的な漫画との出合いは三十歳を過ぎてからだ。

 「つげ義春の『海辺の叙景』を読み、漫画でもこんな表現ができるのか、と驚いた」。〇〇年、三十九歳でデビュー。白黒のコントラストが利いた画風と、一見ばらばらのエピソードを一つの結末に着地させる緻密な構成力で注目され、〇八年に三作目『トロイメライ』で手塚治虫文化賞新生賞に選ばれた。

 ちなみに今作のタイトル。語感だけはユヴァル・ノア・ハラリの世界的ベストセラー『サピエンス全史』を意識したが、「読もうかと思いましたが、早く描き始めたかったので実は読んでいません」と笑う。

 単著としては六作目。寡作ながら、濃密な読後感の作品を生み続けてきた。「本になったのをぱらぱら開いたら、これやばいな、今回の出来は普通じゃないな、と思った。だから、まだちゃんと読めていないんです。自分の漫画がどの程度かは分かるものですから」。自他共に認める、新たな代表作だ。 (谷岡聖史)

「自由ロボット」のサチオ=『ロボ・サピエンス前史』下巻から

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