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【考える広場】

「ゆるキャラ」はどこへ行く

 日本列島を席巻した「ゆるキャラ」。「ゆるキャラグランプリ」で行き過ぎた“投票活動”が明るみに出、ブームは曲がり角とも。平成の街角で人だかりをつくってきた人気者の行方は。

 <ゆるキャラグランプリ> 年に1回持ち回りで開かれ、インターネット投票とイベント会場での決選投票で順位を決める。第9回大会は昨年11月に大阪府東大阪市で開かれ、約900体がエントリー。一方で、一部の市職員がフリーメールのアドレスを使い、地元キャラに大量の組織投票していたことが分かり、論議を呼んだ。

◆変わらず市民の誇り 三重県四日市市長・森智広さん

森智広さん

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 ゆるキャラは、まちと市民をつなぐ懸け橋です。高校野球の甲子園大会では地元のチームを応援し、地域のアイデンティティーが培われる。ゆるキャラもそういう帰属意識を高めるものだと思っています。

 ゆるキャラグランプリに挑戦したのも市民の一体感を醸成するため。市民が市の代表として強烈に認識するものって、地方都市にはそうはありません。そんな中「こにゅうどうくん」は四日市のシンボル、市民のよりどころであり、最大公約数的に最も親しまれているものだった。

 そもそもこにゅうどうくんが作られたのは二十一年前。当時、ゆるキャラということば自体なかったはずです。ゆるキャラの方がこにゅうどうくんに追い付いてきた。

 一昨年のゆるキャラグランプリでは四位入賞を果たしている。だから、強さを装ったのではなく、本当に全国で勝負できるという確信があって挑みました。市職員の大量投票と報じられ、組織票とやゆされましたけど、僕は熱量のグランプリやと思っています。一緒に盛り上がろうと市民に発信しておきながら、動かない役所なんておかしいでしょ。

 職員の投票というのも僕なりのロジック(論理)があります。今回の投票は強制ではありません。職員一人一人が自分の業務をきちんと全うした上で、業務の支障にならない範囲で自らの思いで協力してもらった。部署を超えて、全庁的にシティープロモーションに取り組んだ。こにゅうどうくんへの応援を通じて、役所の一体感もつくりたかった。

 ゆるキャラだけに依存するつもりはありません。四日市には工場夜景や萬古(ばんこ)焼、かぶせ茶などさまざまな良いものがあります。その良いものの中にこにゅうどうくんも入っている。市民にとっては同列なんです。

 今の地方都市は、激しい都市間競争に直面しており非常に厳しい状況です。市の誇れる全ての資源を投入してプロモーションしていかないといけないのです。現状維持では淘汰(とうた)される。生き残るのが難しい時代です。各自治体が存在感を出していくために模索していて、もがいている。四日市は、市が誇れるものを取り上げ全力で発信していくスタンス。その一つがこにゅうどうくんだったということなんです。

 (聞き手・坂麻有)

 <もり・ともひろ> 1978年、三重県生まれ。早稲田大大学院公共経営研究科修了。公認会計士。同県四日市市議などを経て2016年11月の市長選に無所属で出馬し、初当選を果たした。

◆美術の価値問う存在 現代美術作家・斉と公平太さん

斉と公平太さん

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 愛知県岡崎市のキャラクター「オカザえもん」をデザインしました。もともとは二〇一二年に岡崎で開かれた現代美術展に出品したイラスト作品です。なぜ、ご当地キャラクターだったのか。

 (イラストレーターの)みうらじゅんさんが初めて「ゆるキャラ」と言いだした時、(作家・画家の)赤瀬川原平さんが街の中にある無用ゆえに面白いものを発見して「トマソン」と名付けたように、役に立たないものを面白がるということだったと思います。でもその結果、役に立たないものが逆転して「面白いもの」として役に立つことになってしまった。

 最初は自分もそのような見方をしていましたが、そんな考え方に疑問を感じ自問自答しました。

 それなら自分でキャラクターそのものを作ってみようと思ったのです。当時、作家としてこういうものを表現したいというエゴを消してみたいとも思っていて、純粋に岡崎のために表現するという設定で描きました。

 今やオカザえもんはパブリックなものになってしまいました。役に立たないものに税金を使っていいのかという批判は当然あると思います。だって、出発点は「役に立たないもの」だったのだから。

 でも単純に「役に立たない」と言い切れないのは、ひねって見るのではなく、素直に「かわいい」「面白い」と受け取る人も多いということです。最初から受けを狙ったわけではない、わざとらしさや作為がないところがあるからかもしれません。それは美術的にも興味深いことです。

 一九九五年に東京都現代美術館がリキテンスタインの作品を六億円で買った時に、「漫画みたいな作品になぜ」という批判が都議から出て社会問題になりました。「美術も分からないのか」と都議を批判する意見がありましたが、一方で、美術の世界を一歩出れば「そんなものに価値があるのか」という感性が普通だったりするのです。この価値観の違いについて考えたりもします。

 自分自身、実は学習された美の枠内でしか「美術」を語っていないのではないかという反省があります。そのような作為的な「美術」の文脈を超えるのが、ご当地キャラの面白さ。美の二重基準の問題を考えさせてくれます。

 (聞き手・大森雅弥)

 <さいと・こうへいた> 1972年、愛知県生まれ。2005年に岡本太郎記念現代芸術大賞展特別賞。15年に愛知県芸術文化選奨文化新人賞。「中日新聞プラス」で「芸術は漠然だ!」を連載。

◆依存しない振興策を 日本総研主席研究員・藻谷浩介さん

藻谷浩介さん

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 地域のイベントにゆるキャラが登場すれば、子どもたちは喜んで集まってきます。熊本県の「くまモン」や滋賀県彦根市の「ひこにゃん」のようにデザインが優れていれば大人にも愛されます。しかし、ゆるキャラの効果はそこまで。それ以上ではありません。ゆるキャラで自治体の知名度が上がれば経済効果があり、地域振興につながると考えるのは間違いです。

 ゆるキャラという言葉が生まれる前から「ちょっとずれている。そこが面白い」というキャラクターはありました。大阪の「ビリケン」はまさにゆるキャラです。大阪人に愛されていて、最大の成功例と言えます。でも、大阪の経済活性化にどれほどの効果があったのか。くまモンはゆるキャラブームの中では唯一無二の存在で、関連グッズもよく売れています。しかし、製造を県内工場に限っているわけではないので、地元への経済効果は限定的です。

 ゆるキャラは、もともと遊びです。ゆるキャラグランプリも遊びだった。目をつり上げて順位を競うようなものではないんです。ところが昨年、三重県四日市市や福岡県大牟田市の無理な票集めが問題になりました。「なぜ今どき、そこまでして」と、多くの人が思ったでしょう。両市に共通するのは地方の工業都市だという点です。国際競争に駆り立てられている工業都市の習性で、ゆるキャラでも一位にならないといけないと考えたのでしょうか。

 大牟田市の幹部が、この問題でマスコミの取材を受けて「大牟田には何もないから」と答えていました。とんでもない。大牟田には三池炭鉱があり、日本の近代化に大いに貢献しました。世界文化遺産にも登録されています。一方、四日市は東海道五十三次の主要な宿場町でした。石油コンビナートを中心に産業集積があります。公害も克服した。戦国時代から続く名物のなが餅は名古屋近辺のお菓子の中では一番おいしいと私は思っています。

 四日市も大牟田も、官の力ではなく民の力で発展したまちです。その歴史を子どもたちに教え、大人たちも勉強することです。地域を知れば「ここも捨てたものではない」と誇りを持てるはずです。転勤族も含めて地域住民が自分たちのまちの歴史や魅力を知り、外に発信することが地域振興の第一歩です。

 (聞き手・越智俊至)

 <もたに・こうすけ> 1964年、山口県生まれ。東京大卒。米コロンビア大大学院で経営学修士(MBA)。著書に『里山資本主義』(共著)『デフレの正体』『完本しなやかな日本列島のつくりかた』など。

 

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