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【考える広場】

新社会人の君へ

 平成最後にして令和最初となる新社会人が一歩を踏み出した。彼らが生まれた年には、ITやゲーム関係の話題が目立つ。電脳社会を生きてきた彼らに、人生の先輩から言葉を贈ってもらった。

 <新社会人の生まれた年> 大卒者の多くが生まれた1996(平成8)年には、小選挙区で初めて総選挙が開かれた。ポケットモンスター、たまごっち、アムラーも話題に。高卒者の多くが生まれた2000(同12)年は10代の殺人事件が相次いだ。高橋尚子さんがシドニー五輪陸上女子マラソンで金メダルを獲得。流行語はIT革命。

◆志を持ち貪欲に吸収 ブラザー工業会長・小池利和さん

ブラザー工業会長・小池利和さん

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 私は会社に入って四十年になります。この会社しか受けませんでした。ここを選んだ理由は、採用人数が当時は多くなく、企業規模も適度だったので、自分が先頭を切って走り、トップに立てるチャンスもあるかなと思ったからです。「鶏口牛後」の考え方ですね。

 新社会人の皆さんは、就職活動で多くの企業を回り、複数の会社から内定をもらった人もいるでしょう。その選択肢の中から悩んだ末に一社を選んで入社した。まずは、その会社で活躍することを考えてください。力を存分に発揮できるよう真面目に取り組むことです。入社してみたら、自分が想定していたのとは違うとか、期待していたものがないとか、いろいろあるかもしれません。しかし、それはビジネスの世界に限らず人生の中でよくある話です。

 当社では若手の離職率は低いのですが、会社によっては入社一、二年で辞めてしまう人もいるようです。何か面白くないことがあって、やる気を失ってしまうのでしょうか。しかし、せっかく選んだ会社と物別れのようになってしまうのは残念なことです。入社後一年や二年は、まだ訓練中、勉強中の身です。会社のこともよく分かっていないはずです。自分の直感だけで決めてしまわず、周囲の人の話を聞いてみればいい。違う職場の人と交流すれば知識や情報の幅も広がります。

 私は入社三年目で米国駐在を打診されました。当時、まだ珍しかったパソコンと接続して使うプリンターを販売する新規事業で、事務所も自分で探す必要がありました。何人かの先輩は断ったそうですが、私は受けました。海外志望でもなく、英語も得意ではありませんでした。でも、普通のコースでは得られないキャリアが得られるチャンスだと思ったからです。若いうちにいろいろ経験した方が人生にプラスになります。仕事でも語学でも吸収力があります。それに、若いときは失敗しても人生の肥やしになります。

 私がモチベーションにしているのは、自分が周りから期待されているという思いです。会社は新人にも期待します。私は運も良くてここまで来ました。新社会人の皆さんも「将来、この会社のトップに上り詰める」ぐらいの高い志を持って、あらゆることを貪欲に吸収しながら成長してほしいと思います。

 (聞き手・越智俊至)

 <こいけ・としかず> 1955年、愛知県生まれ。早稲田大政治経済学部卒。79年、ブラザー工業入社。2000年に同社の米国統括会社社長。米国勤務は23年。07年にブラザー工業社長、18年6月から現職。

◆柔軟に生きる強さを 「日経WOMAN」編集長・藤川明日香さん

「日経WOMAN」編集長・藤川明日香さん

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 皆さんに必要なことを一言で申し上げるなら、日々努力することとタフになることです。

 まず、日々の努力。社会は厳しくて残酷なところです。職場で評価されない状態が続いてしまうと、一番つらいのは自分自身。だからこそ、どんな小さい仕事でも努力する、その上で創意工夫をする。最初は言われたことをミスなくやることからでいい。そして、どうすれば部署や事業のためになるかを考え、アイデアを出すことが求められていると認識してください。

 続いて、タフになること。努力を続けても、大きな失敗をしたり合わない上司がいたり、苦しいことはいっぱい。心が折れてしまう人がたくさんいる。そうならないためには、失敗を引きずらず成長の糧にすること。なぜ失敗したかを振り返り、二度と同じ過ちをしない。また、本当に合わない上司がいるなら転職や異動を願い出るなど、時には逃げてもいいと思います。

 社会人として身に付けるべき習慣は健康管理と情報収集です。自分が仕事を休めば周囲に多大な影響を及ぼすことを肝に銘じ、自己管理をすること。情報収集では、インターネットやSNSだけでは自分が好む材料しか集まらず、偏った思考になる恐れも。時間がないなら、新聞の見出しを追う、書店に行って並んでいる本のタイトルを眺めるだけでも、世の中の動きが分かります。違う職業の人と話すことも世界を広げます。

 「日経WOMAN」の読者の投稿によると、男女、同じ仕事をしているのに男性が先に昇進することがいまだにあるよう。状況を変える方法は、仕事で結果を出すこと。たとえ事務職のようなサポート的な仕事でも、業務改善につながるような工夫をすることで、責任ある立場を任される可能性もあります。

 女性の中には「出産すると昇進のペースが落ちる」と危惧している人も多い。でも最近は、挽回は可能という頼もしい意見が増えています。自分の関心が向かないなら、結婚や出産をしないという選択も。女性は男性以上に自分と他人を比較しがちですが、人の生き方に振り回されず、自分の基準で生きるほうが人生は充実するはずです。

 とはいえ、人生はなかなか計画通りにはいかないもの。予想外のことがあっても悲観せず、どんな状況でも柔軟に生きる強さを持ってほしいです。

 (聞き手・大森雅弥)

 <ふじかわ・あすか> 1974年、千葉県生まれ。東京工業大大学院修士課程修了後、98年に日経BP社に入社した。建築専門誌などを経て、2008年から「日経WOMAN」編集部。18年から現職。

◆つらかったら逃げて 経営コンサルタント・えらいてんちょうさん

経営コンサルタント・えらいてんちょうさん

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 今の世の中、学校を出たらサラリーマンになるため就職活動するのが、ある種当たり前になっています。でもサラリーマンに向かない人もいる。就職活動に失敗した人、会社組織で生きるのが嫌になった人、アルバイトも続かない人…。はい、みんな大丈夫です。生きていくのはそんなに難しくない。サラリーマン以外の選択肢もあるから、人生を投げ出さないでほしい。そんな思いで『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)という本を出版しました。

 私自身、毎朝決まった時間に起きて、スーツ着て、満員電車で通勤するのは無理だと思ってました。ほとんど就職活動はせず、大学卒業後、「計画なし、資金なし、経験なし」で「しょぼい起業」をしたのです。

 自宅代わりに店舗を借り、なんとなくリサイクルショップを開店したら、これが当たった。出費を限界まで抑え、店を通して人間関係を広げ、店に集う人々の技術や労働力を利用すれば利益は出る。今は経営コンサルタントなどで自分と妻子が暮らすのに十分な収入があります。

 しょぼく手掛けた事業の中でも「イベントバー」はちょっと異色です。実際の店をネットで宣伝するのではなく、ネット空間をそのまま店にするイメージ。お酒を飲むための一般的なバーではありません。主催者がテーマ設定してネットで宣伝し、お客さん同士が交流する。店側は場所を提供するだけ。たとえば「死にたいバー」は、「死にたい」と思っているけれど口に出せない人が集まり、無責任に「あー、死にたい」と言い合うだけですが、参加者は楽しい。

 会社勤めというのは、会社と契約して自分の時間を売ること。でも、今の時代はお金より時間が重要だという価値観が強まっています。安易に会社を辞めろと勧めているわけではありません。だけど、苦しさに耐えて働き続ける必要はない。会社を辞めても心臓は止まらないけれど、苦しくて精神に失調を来せば死の危険がありますから。

 自分の価値は、自分が思いもしないところにありますよ。私だって起業家として人に頼られるなんて、思ってもみなかった。新社会人の方々には「こうじゃなきゃ」という思い込みから自由になってほしい。他人は思うほど自分のことを気にしていません。つらかったら逃げていい。しょぼく生きていきましょう。

 (聞き手・出田阿生)

 <えらいてんちょう> 1990年、東京都生まれ。本名・矢内東紀(やうち・はるき)。慶応大卒。イベントバーが評判を呼び、全国でフランチャイズ化。「しょぼい店舗」の開業・運営アドバイザーとしても活躍中。

 

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