東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 文化 > 考える広場 > 記事

ここから本文

【考える広場】

法律論だけで済まない日韓関係 五味洋治・論説委員が聞く

 元徴用工を巡り、日本企業の賠償を求める判決が韓国で出され、資産の売却手続きが進んでいます。日本政府は報復措置を予告しており、関係悪化が懸念されています。文在寅(ムンジェイン)大統領は、日本との関係をどう考えているのでしょうか。日韓関係に詳しい一橋大大学院法学研究科の権容ソク准教授と、新しい時代の日韓関係を考えてみました。

 <元徴用工訴訟> 日本の植民地時代に徴用などで労働を強いられたとして、韓国人の元徴用工らが日本企業に賠償を求め提訴。日本政府は韓国人の個人請求権問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場だが、韓国最高裁は昨年、日本企業に賠償を命じる確定判決を出し、資産差し押さえに同意。日本政府は、日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の開催を求めたが、韓国側は同意していない。

◆黒白より和解の意志

権容ソクさん

写真

 五味 どうしてこんなにギクシャクするのだろうという思いです。昨年十月に元徴用工を巡る判決が韓国で出されてから、海上自衛隊の哨戒機への火器管制レーダー照射問題などが相次ぎ、日本では韓国批判が高まりました。逆に韓国では「日本が歴史問題を政治利用している」と、文大統領が発言するなど接点が見つかりません。

 権 私は日韓関係が過去最悪だとは思いません。確かに政府間は対立していますが、近年、社会や文化のトランスナショナルな交流は拡大し、各レベル、個人ごとの日韓関係があるのです。その集合体が、今の多元的な関係を形成しています。

 日韓関係が良かった時代はあるのでしょうか。冷戦構造や国民不在のまま、政府が関係を動かしてきました。国交正常化から五十四年、認識面を含めた日韓の関係正常化はいまだ途上にあるといえます。今は余裕のなくなった日本と、民主化し自信をつけた韓国が本音をぶつけ合う関係。対等な新しい関係が生まれる前の「陣痛」です。

 五味 元徴用工を巡る韓国での判決は、一九六五年の日韓基本条約と請求権協定をひっくり返すものだと日本では受け止められています。国と国との合意をほごにするものであり、韓国は信用できないと受け止める人が多いのですが、韓国側ではどう考えているのでしょうか。

 権 韓国でも日韓関係を案じる声はあります。それでも判決が支持される要因は二つ。まずは、日本の統治が不法であることを六五年の日韓基本条約では認めておらず、よって「強制動員」問題は請求権協定によって解決されていないという判断を判決が下したこと。第二は、司法が政治介入から独立し、被害者の立場に立った「国民の司法」になったとされる点です。

 韓国併合、国交正常化、慰安婦問題日韓合意の際も、国民不在のまま、権力者が勝手に日韓の重要な問題を処理したことに対し、民主化された国民は憤りを覚えているのです。

 五味 この問題の背景には、今指摘された、植民地支配が当時の国際法に照らして合法だったのか、不当だったのかという問題があります。日本政府は、「合法だった」との立場です。六五年当時は、双方が都合良く解釈していましたが、これを見直して新しい合意を作るべきだ、ということですか。

 権 両国の見解の相違は、結局埋められないでしょう。しかし、併合の合法性を問う前に、日本にとっても外交史上のプラスだったのか。当時日本には西洋の帝国主義に対し、アジアの解放を掲げる「アジア主義」の潮流もありました。これは西洋近代の押し付けに対し、アジアの主体性と文明の多元性を訴える普遍的な原理をもつものでした。しかし、「アジアの勝利」とされた日露戦争後、隣国の韓国を植民地化することで、日本はアジアを敵にし、自ら論理矛盾に陥ってしまったのです。

 無理に隣国を支配下に置いた外交が失敗であり、日本を間違った方向に進めたということです。それをふまえた上で、六五年の合意を再検討したらどうでしょう。歴史や政治の問題であるはずの日韓関係を、法律だけで語ってはいけない。事実を基に冷静に議論し、互いの主張を理解し、未来に向けて対話をすることが大切です。日韓に必要なことは黒白をつけることではなく「和解への意志」です。

 五味 元徴用工の判決に対して、文大統領は司法のことなので政府は何もできない、静観するとしています。また、戦前の日本に協力していた「親日派」への批判も行っており、日本敵視と受け取る人もいます。

 権 文政権の「無策」への批判は可能ですが、「敵視」は誤解です。文大統領は、日本に対し「歴史に謙虚になるべきだ」など、前任者より控えめな言辞に終始しています。歴史問題への対応を強く要求してもいません。頭から「反日」と決めつけるべきではないでしょう。

 「親日派(チニルパ)」はいわゆる「親日」ではなく、戦前に日本統治に協力し、民族の独立を妨害し私腹を肥やした人を指します。解放後も韓国で君臨し、親米反共の国家をつくり、分断体制と開発独裁を支えました。彼らが日本と妥協し、今なお既得権層を形成しているとされます。それに抵抗するリベラルな勢力が文大統領を誕生させた背景です。文大統領は「積弊清算」を掲げ、「親日派」が支配する構造を変えようとしています。それは「真の独立」を目指すもので、「反日」ではないのです。

 五味 文大統領は就任二年を超えました。経済減速が目立ち、南北関係、米朝関係も停滞しています。彼が目指すものは実現しつつありますか。

 権 文大統領は公約で「国民が主人となる国」を掲げました。朴槿恵(パククネ)前大統領が「親友」と国政を勝手に動かすなど、権力私物化に反発して起きたのがキャンドル革命です。その導火線の一つになった映画が、文大統領の盟友・盧武鉉(ノムヒョン)元大統領の弁護士時代を描いた『弁護人』です。「国家とは国民だ!」というせりふが政治を変えました。文政権は権力の不正腐敗に対する処罰、司法・検察改革、光州事件などかつての国家暴力への謝罪、言論の自由、国民請願制度、選挙制度改革など、国民主権の実現に取り組んでいます。

 北朝鮮政策が批判されていますが、文大統領が目指しているのは、東アジアで「人間中心の平和と繁栄の共同体」をつくることです。そのためには平和が必要で、北朝鮮との和解・交流を通じて、改革・開放へと導き、平和と持続可能な成長の道筋を模索しているのです。

 「共に」が文大統領の政治のキーワードです。自分だけでなく、「共に生きよう」という精神です。自国優先主義、排他主義がはびこる世界政治の中で貴重なことです。確かに経済指標は厳しいですが、社会面では「#MeToo」運動など女性や社会的弱者の人権向上、脱原発、芸能人と警察の癒着などにもメスを入れています。

 五味 六月には大阪で二十カ国・地域(G20)サミットが開かれます。日韓の首脳は会談をするべきですね。

 権 そう思います。日韓関係は歴史問題だけが争点ではありません。グローバル社会において日韓が協力すべきアジェンダはいくらでもあります。G20は国益をこえてグローバルガバナンス(協治)のための枠組みですので、日韓共に責任意識をもってほしいものです。

 韓国側は、日本側の「失望」にも耳を傾けつつ、誤解が放置されないような外交を展開するよう望みます。文大統領も訪日を機会に、日本の市民に直接語りかけてほしいと思います。

 <クォン・ヨンソク> 1970年、韓国・ソウル生まれ。94年一橋大法学部卒業後、同大学院法学研究科博士課程修了。2008年から同大学院法学研究科の准教授。専門は東アジア国際関係史。著書に『岸政権期の「アジア外交」』『「韓流」と「日流」−文化から読み解く日韓新時代』がある。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報