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【考える広場】

「ふるさと納税」今日からは

 寄付により、所得税と住民税が差し引かれる「ふるさと納税」が一日、新制度に移行した。実質二千円の負担で、自治体からの返礼品が受け取れるふるさと納税。寄付金額は年々うなぎ上りで、過度な競争は「官製ネットショッピング」とも。新制度で改善されるのか。

 <改正地方税法による新制度> (1)寄付金募集の適正な実施(2)返礼割合は寄付額の3割以下(3)返礼品は地場産品−の条件付きで、ふるさと納税(特例控除)の対象自治体を総務大臣が指定する。総務省は5月、豪華な返礼品で著しく多額の寄付を集めたことなどから、大阪府泉佐野市▽静岡県小山町▽和歌山県高野町▽佐賀県みやき町を対象外とすると発表。6月からは4市町に寄付しても控除は受けられない。

◆金額規制さらに必要 浜松市長・鈴木康友さん

鈴木康友さん

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 ふるさと納税制度が始まった二〇〇八年には、返礼品という発想や仕組みはなかった。今でも覚えていますが、浜松市へのふるさと納税第一号は、作家鈴木光司さん。小学校以来の親友で「こういう制度ができたから故郷へ恩返しのつもりで」とお願いしました。出身地や関係が深い自治体に寄付という形で思いを託す。これがこの制度のあるべき姿だと思います。

 一部の自治体がやっていたアマゾンのギフト券などを返礼品にするのは言語道断、禁じ手です。寄付者からすれば、納めるべき住民税をふるさと納税という行為を通して金券に交換しただけ。言葉は悪いですが、“合法的脱税”を市町が手助けしていたわけで、それらを認めなくなった今回の制度変更はある程度、評価しています。

 浜松市の場合、一五年度の市への寄付額は三千百四十八万円だったにもかかわらず、他市町村への寄付による市民税控除額は十倍以上の三億三千万円近くに達しました。赤字分のうち75%は地方交付税で補填(ほてん)される建前ですが、総務省から「その分も入れて地方交付税の金額を算定してあるから」と言われたら、抗弁しようがない。

 本来、浜松市の財政規模(一九年度一般会計予算三千五百億円)からすれば、そんなに大慌てする額ではなかったのですが、自治体経営者としては、制度がある以上、その土俵に乗っかって競争せざるを得ません。一七年度からは、担当課を税務課部門から、観光・シティプロモーション課に変更しました。地元産品のPR、浜松の情報発信に役立つと考えたからです。一つか二つだった返礼品掲載の仲介サイトは七つまで増やし、返礼品も今では九百五十品目まで拡充しました。制度利用者は返礼品の内容から寄付先を選んでいるのが実情だからです。

 幸い、当市は、浜名湖ウナギ、浜松餃子(ギョーザ)、三ケ日ミカン、遠州綿紬(つむぎ)などブランド力のある地元産品に恵まれており、一八年度の寄付金額は九億三千五百万円を超えました。

 でも、このうち返礼品に三割、受注・発送などの業務委託費、仲介サイトへの手数料にそれぞれ約一割を支払わねばならないため、実際に市に入る収入は約半分です。制度改革はまだ不十分。当初の趣旨からすれば、返礼品の金額規制は一割程度に下げていいと考えています。

 (聞き手・都築修)

 <すずき・やすとも> 1957年、浜松市生まれ。慶応大卒、松下政経塾第1期生。企画会社経営などをへて、衆議院議員を2期務めた。2007年浜松市長選に立候補、初当選。現在、4期目。

◆使途への感度上げて 神戸大経営学研究科准教授・保田隆明さん

保田隆明さん

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 ふるさと納税は地域活性化のための制度です。創設当初、返礼品はありませんでした。ところが、高額品や換金性の高いものを返礼品にする自治体が現れ、返礼品だけに焦点が当たるようになってしまいました。

 新制度では、返礼品は寄付金額の三割以下で調達した地場産品と定義されました。今後は、お得度合いで競争することはできません。一部の自治体が突出して多額の寄付金を集めるという状況は是正されるでしょう。

 地場産品といわれても、これといってないという自治体もあります。しかし、自分たちが気付いていないだけで、都市部の人から見ると魅力的な商品もあります。それでもいい地場産品がないというのなら作りましょう。新産業創出とまではいかなくても、新商品を開発すればいいのです。 

 モノではなくコト、つまり体験を提供する手もあります。寄付者向けのツアーやイベントを行う自治体も増えています。モノを送ってそれで終わりではなく、来てもらう。一度足を運べば、翌年も寄付しようという気になるのではないでしょうか。また、ユニークな事業計画を打ち出して、それを実施する資金として寄付金を集めるという手法もあります。

 消費者は、返礼品をもらって得をするというだけではなく、自分が寄付したお金が有効活用されているかという点に、もっと関心を持ってほしいと思います。お金の使途に対する感度が上がるというのも、この制度の意義の一つです。寄付をすると、居住地の税収は減ります。行政サービスの低下につながるかもしれない。それも知っておく必要があるでしょう。

 返礼品を扱う事業者には、返礼品市場に頼らないよう求めます。返礼品市場は官製市場ですから、それに依存することは補助金依存と変わりません。返礼品の流れはネット通販とほぼ同じで、事業者はネット通販の業務を疑似体験していると言えます。返礼品市場をステップとして、本格的なネット通販の世界で勝負してください。

 ふるさと納税制度には課題もあります。高額所得者に有利な点もその一つで、改善の余地があります。しかし、この制度がきっかけとなって人、モノ、カネが都市部と地方をぐるぐる回るようになれば、制度の意義はあると考えています。

 (聞き手・越智俊至)

 <ほうだ・たかあき> 1974年、兵庫県生まれ。早稲田大大学院修了。博士(商学)。外資系企業で投資銀行業務に従事した後、IT企業を設立するなど多彩な経歴を持つ。2015年9月から現職。

◆返礼がゆがめた制度 大阪ボランティア協会常務理事・早瀬昇さん

早瀬昇さん

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 「ふるさと納税」は寄付か? 普通の税金は徴収されるものですが、これは自分から送るもの。その主体性には寄付の性格があります。実際、熊本地震の被災地に寄せられた善意の税金は寄付と言えるでしょう。

 しかし、返礼品を競う今の形は、もうネットショッピングでしかありません。地方経済活性化のきっかけになった効果はあるかもしれませんが、経済行為であって寄付とは別ものです。

 ボランティアや民間非営利団体(NPO)を育てるためには寄付文化の拡大が必要と考えていますが、寄付を進める環境をつくる上でもふるさと納税はマイナスです。お金を提供すれば返礼品があるというイメージを作ってしまったからです。

 寄付文化とは、寄付することによって自分たちの社会が変わるという価値観をみんなが持っていることです。日本では第二次世界大戦後、その文化が弱くなりました。社会学者の日高六郎さんが言うように、戦前の「滅私奉公」の反動で「滅公奉私」になったからです。お国(公)に奉仕するのはもうごめん。税金を払っているんだから、公共的なことは全部、役所がやればよい。なぜボランティアや寄付をするの?−となってしまった。

 でも、寄付は税金では無理なことができるのです。税金は私の意図とは関係なく使われがちですが、寄付の場合は自分の意思で活用先が決められる。自分が好きな場所や分野で活動できるボランティアと同じです。

 昨年の大阪府北部地震で一人親家庭の子どもたち向けの学習塾の建物が壊れ、再建のためネットで寄付を募り、目標を超える約千五百万円を集めたケース。一番の成果は、この社会には苦しい立場の人を支えようとする人たちがいると信じられる体験を子どもたちがしたことです。自分の意思で、今の社会を信じるに値するものにする。寄付にはそんな力があるのです。

 ふるさと納税が寄付の形を取り戻すには返礼品を抑制すべきです。それではお金が集まらないでしょうか? 内閣府の「社会意識に関する世論調査」によると、何か社会の役に立ちたいと思っている人が全体の三分の二もいます。そのやる気をどう引き出し、役に立ったという実感を持ってもらえるか。返礼品という目の前の利益ではなく、社会への参加という未来を見通す喜びを提供すべきです。

 (聞き手・大森雅弥)

 <はやせ・のぼる> 1955年、大阪府生まれ。前・日本NPOセンター代表理事。日本ファンドレイジング協会副代表理事。『「参加の力」が創る共生社会』(ミネルヴァ書房)など著書多数。

 

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