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【考える広場】

食品ロス大国ニッポン

 まだ食べられる食品が大量に捨てられている。そんなもったいない状況を変えようと、「食品ロス削減推進法」が十月に施行された。削減に向けての課題を探るとともに、日本人の「食」の在り方も考える。

 <食品ロス削減推進法> 削減のための国民運動を推進するため、国・自治体・事業者の責務と、消費者の役割を定めた。国が基本方針をまとめ、自治体が削減推進計画を設ける。国内の食品ロスは643万トン(2016年度)。内訳は事業系が352万トン、家庭系が291万トン。事業系のロスについては、食品リサイクル法の基本方針で30年度に00年度比50%減という目標がある。家庭系については今後、国民の意識向上が求められそうだ。

井出留美さん

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◆理不尽な小売り慣習 ジャーナリスト・井出留美さん

 作り過ぎ、売り過ぎ、買い過ぎ。三つの過剰が食品ロスを生んでいます。

 食品メーカーは作り過ぎです。小売業者が欠品、つまり棚から商品がなくなる状態を許さないからです。小売店は商品が減ってきたらメーカーに注文します。注文に応えられない場合、失った利益分の補償を求められます。さらにメーカーは、欠品を理由に取引停止になることを恐れます。

 そのためメーカーは、必要数以上に作らざるを得ません。ピラミッドの頂点に小売りがいてメーカーは下の方にいます。特に全国展開しているチェーン店は強い力を持っています。メーカーは従うしかありません。

 では、小売店はなぜ欠品を許容しないのでしょうか。小売業者は「お客さまのため。買い物に来て商品がなければ迷惑がかかる」と答えます。でも実は、売り上げを失いたくない、競合店に客を奪われたくないというのが本音でしょう。

 食品ロスの一因になっている商慣習の一つに「三分の一ルール」があります。賞味期限六カ月のお菓子があったとします。製造から二カ月が納品期限です。メーカーはそれまでに小売りに納めないといけません。次の二カ月が販売期限。小売りはここまでに売らないといけない。期限を過ぎると廃棄や返品になります。

 しかし、消費者は賞味期限をどれほど気にしているのでしょうか。京都市で二〇一七年十一〜十二月、賞味期限ぎりぎりまで商品を棚に置いて売る社会実験が行われました。結果、食品ロスは10%減り、売上金額は5・7%増えました。

 作り過ぎ、売り過ぎで発生するコストは販売価格に上乗せされます。また、小売店で廃棄された食品は事業系一般廃棄物なので、焼却処分にかかる費用には私たちの税金も使われます。つまり、消費者は二重に負担させられているわけです。

 消費者の買い過ぎも問題です。冷蔵庫に大量の食品を詰め込む。奥の方にある食品を見たら賞味期限を過ぎていたので捨てる。食品ロスの半分近くは家庭から出ています。決して「人ごと」ではありません。

 食品ロス削減推進法が施行されました。一歩前進ですが、ゴールではありません。理不尽な商慣習の改善や消費者の啓発を進める必要があると思います。

 (聞き手・越智俊至)

 <いで・るみ> 食品ロス問題の専門家。博士(栄養学)。食品会社広報室長を経て、office3.11代表取締役。著書に『賞味期限のウソ』『「食品ロス」をなくしたら1か月5000円の得!』など。

◆削減法向き合う契機 キユーピーCSR部長・山本英之さん

 メーカーとして、というかメーカーだからこそよけいに、私たちは食品ロスをもったいないと思っています。

山本英之さん

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 私たちができることでは、まず販売予測の精度を高めることがあります。小売店との連動を高め、時期による需要の変動などに対応しています。

 賞味・消費期間の延長にも取り組んでいます。マヨネーズは製造工程の変更などで二カ月延ばすことに成功。カット野菜も洗浄方法などの改良で一日延長できました。

 それでもさまざまな理由で食べられるのに販売できないものについては、二〇〇七年ごろからフードバンクの「セカンドハーベスト」に提供してきました。キユーピーだけで行えない活動には、積極的に社外の力を借りています。

 もともとキユーピーには、食品をなるべく使い切る、という文化があります。例えば、マヨネーズの原料である卵は殻まですべて使っています。殻は肥料やカルシウムとして食品原料に、殻の内側の薄膜(卵殻膜)は化粧品の原料などに活用しています。最近は、カット野菜の製造過程で発生するキャベツの芯などの野菜の未利用部について、乳牛の飼料に活用することに成功しました。

 食品ロス削減推進法ができて、さらに大変になる? いいえ、逆に歓迎しています。この法律は私たち食品メーカーだけではなく、農家から原料メーカー、飲食店、そして消費者まで、食に関係する皆が対象。削減に向けた機運が盛り上がることが期待される。これを機に日本全体で食品ロスに向き合うべきだと思います。

 食品ロスを解決するかぎは、消費者の価値観です。私たちは、「新しくて良い商品を欲しいときに手に入れたい」という消費者を満足させることと、食品ロスという社会的な問題への対応を両立しなければなりません。いつのころからか根付いてしまったと思われる「新しいものが良いもの」というマインドを変えていただくだけで、流通もメーカーも対応を変えることができるのです。

 もちろん、人の価値観は簡単には変わりません。一回二回の啓発でどうなるものでもないでしょう。五十年、百年先を見据えた問題意識の共有を図るような取り組みが必要だと思います。

 (聞き手・坂西亮哉=南山大三年)

 <やまもと・ひでゆき> 1966年生まれ、神奈川県出身。89年にキユーピー入社。営業畑を歩き、高松、宇都宮、大阪、東京に勤務。フードサービス本部開発部長を経て、今年10月から現職。

魚柄仁之助さん

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◆まずいから食べ残す 食文化研究家・魚柄仁之助さん

 僕は自分が考える「まともな食生活」を実践した結果、食費一人月九千円以下で生活できました。安い買い物をして、それで結構うまいものを作っている。

 そのスキル(技能)を本にして注目されましたが、それは単なる節約料理ではありません。必要以上に稼がず、好きなものを作って食べ、好きな音楽をやっている−。そういう生き方とセットなのです。偉そうなことを言っても聞いてもらえないから、本ではスキルだけにした。

 例えば、浅漬けのもと。スーパーで見たら百六十五円。僕の半日分の食費です。成分を見たら塩とうま味調味料ぐらい。塩ワカメとコンブを切ったもので白菜をもんだらいいじゃないか。そうしたら主婦の間で口コミで広がりました。まるで自分が発明したみたいに周囲に教えていた人もいます。

 地球環境を守るために食べ物を大事にしようなんて、きれい事を言ってモラルに訴えても人は動かない。主婦たちは得したり、その節約技を紹介してみんなにほめられたりしたので結果的にエコに動いたのです。

 その経験から言うと、食品ロス削減推進法は意味がないと思います。「食べ物をむだにしてはいけない」と、みんな思っていますよ。でも言うはやすく、行うは難しでね。国が言ったからといって、どうなるものではありません。

 なぜ食べ残しが発生するか。まずいものだからですよ。本当においしかったら残らない。食品メーカーはコストを考えて作りますから、いかに安く平均値の味を出すかに力を入れている。みんなで食べたら残す人が必ず出ます。僕はよく友人を家に招き、料理を振る舞いますが、いつも顔を見て作っている。同じ人でも今日は体調が悪そうだなとかがある。そうやって作ってこそ、全部食べたくなる料理ができるのです。

 食品ロスを解決するには、こうした個人のスキルが大事だと思います。皆が持つべきだとは言いません。ただ、持ったほうが楽ですよと。それはレシピを学んで、その通りに作ることではない。自分で味を盗んで、試行錯誤して再現することです。僕は味の「成立要因」を考えることと言っています。

 もっと言うと、スキルだけでもだめ。スキルに裏打ちされたモラルが必要です。それはそれぞれの人の生き方や哲学に関わってくるでしょう。 (聞き手・大森雅弥)

 <うおつか・じんのすけ> 1956年、福岡県生まれ。健康的でむだのない食生活を提言し続ける。近著は『うおつか流台所リストラ術』(飛鳥新社)、『食育のウソとホント』(こぶし書房)。

 

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