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【考える広場】

日本ラグビーの未来

 ラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会が開催され、日本代表は初の決勝トーナメント進出を果たした。選手たちのテレビ出演も相次ぎ、今やラグビーブーム。その未来(あした)をさらに輝かせるにはどうする?

 <ラグビーW杯日本大会> 9月20日から11月2日まで、20チームが全国の12会場で熱戦を繰り広げた。日本は初めて1次リーグを突破し、決勝トーナメント進出(8強)を果たした。国際統括団体ワールドラグビーの会長が「最も偉大なW杯の一つ」と称賛するように大会運営は大成功。日本戦のテレビ視聴率が瞬間で50%を超えた試合もあるなどブームを巻き起こし、新語・流行語大賞の年間大賞に日本代表のスローガン「ONE TEAM(ワンチーム)」が選ばれた。

◆見て楽しめる競技に 元日本代表選手・松尾雄治さん

松尾雄治さん

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 何のためにスポーツをするのか? 勝つことだけが目的ではありません。根本的には「平和のため」です。W杯は、ラグビーの平和の祭典です。その大会が日本で開かれた。素晴らしいことです。

 岩手県釜石市も会場になりました。東日本大震災の被災地であり、私も所属した新日鉄釜石の本拠地です。誘致の際は、地元の人たちの熱意に加え、全国のラグビーファンが応援してくれました。平尾誠二君をはじめ神戸製鋼の関係者の後押しもありました。アクセスがいい場所ではないのに、試合当日は全国から人が集まり、応援もすごかった。大成功でした。

 日本代表のベスト8入りは予想していなかったので、びっくりしました。同時に「こんなチームになったんだ」と感慨を覚えました。われわれの頃は「最後は負けるんじゃないか」という気持ちがどこかにありました。今の人は違います。相手が強くても「やってみなければ分からない。絶対に勝つんだ」と考えます。精神的にすごく強くなりました。そういう選手たちの姿に教えられることも多いと思います。

 ラグビーは一人では何もできない競技です。日本代表は本当に「ワンチーム」になっていました。外国出身の選手もスタッフも含め、心が一つになっていた。だから、あの成績を残せたんです。まとめ役は主将のリーチ・マイケル選手だと思います。彼の生き方、リーダーシップは尊敬に値します。

 日本代表は、心のラグビーをしました。心が伝わるチームでした。見ている人は、そこに感動した。私の周りにも「こんなに面白い競技があったのか」と言う人がたくさんいます。ラグビー関係者はこれまで、見る人のことをあまり考えていなかった。今後は見ている人が楽しめる競技にしないといけないでしょう。国内では一月からトップリーグが始まります。多くの人に見に来てもらえるような工夫、努力が必要です。

 リーグ戦とは別に、代表クラスの日本人選手のチームと、日本でプレーしている外国人選手のチームが対戦する特別試合を各地で開催すれば盛り上がるはずです。プロリーグの構想もあります。プロ化は理想ですが、まずは土台をしっかりつくること。少ないチームでスタートさせる手もあると思います。

 (聞き手・越智俊至)

 <まつお・ゆうじ> 1954年、東京都生まれ。明治大ラグビー部を初の日本一に導く。新日鉄釜石では7連覇を果たし、日本代表でも司令塔として活躍。NPO法人スクラム釜石キャプテン。

◆「自由」の文化広める 「ラグビーマガジン」編集長・田村一博さん

田村一博さん

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 ラグビーがこんなに爆発的な人気を得るとは予想外でした。理由の一つは精神性でしょうか。タックルを受けて倒れながらも球をつなぐ自己犠牲、「ワンチーム」という言葉に象徴される団結心など、もともと日本人が好きな要素を秘めていたのでしょう。

 もう一つは競技の魅力である肉体性です。ラグビーは生身でぶつかり合うことが大前提。それは非日常の世界です。普通ならよける場面ですから。その意味では単純で、しかし自由。そこが面白い。一方で、試合となれば駆け引きも多くて、その戦略は奥が深い。

 これらに加えて、今回は時代性でも先んじるものがありました。いろんな出自の選手がいて、ダイバーシティー(多様性)に富んでいた。

 今の課題はこのラグビー熱をどう根付かせるか。今年夏以降、ラグビー協会の会長が交代し、理事が若返るなど改革が始まっています。十一月には「新プロリーグ設立準備委員会」が発足しました。日本代表の選手は年間二百日、チームに拘束されています。実質プロなわけで、明確にプロとしての活動を増やしたほうが当然、強くなるでしょう。

 ではどういうプロ化が最適なのか。日本ではこの五十年間、企業が社会人ラグビーを支えてきました。そのため、海外からはこんなによくできたプロチームのシステムはないと見えるそうです。そう考えると、今のリーグの長所を保ちつつ、運営の仕方をプロにして興行化を進め、実入りをよくすることがいいのではないでしょうか。

 もう一つの課題は競技人口をどう増やすか。実は日本は世界でも珍しいぐらい、競技間競争が激しい国なのです。ラグビーには危険というイメージがあるのが弱点ですが、体重別チームをつくって同じぐらいの体重同士でやれば危険ではありません。育成面では、中学にラグビー部が少ないという課題があり、こちらは早急に対応する必要があります。

 ラグビーはそもそも週一回できるかどうかという競技なので、多額の報酬は難しい。でも、友情、自由、規律といったほかのスポーツにはない魅力があります。また、身長、体重が違う人たちがそれぞれに活躍できる競技でもある。そのカルチャーを広めていきたいですね。

 (聞き手・大森雅弥)

 <たむら・かずひろ> 1964年、熊本県生まれ。89年にベースボール・マガジン社に入社し、97年から現職。「ラグビーマガジン」の12月号増刊として、W杯2019総決算号が販売中。

◆ワンチーム日常にも 社会学者、立命館大准教授・松島剛史さん

松島剛史さん

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 海外出身者も日本代表になれるラグビー独特の資格規定は、大英帝国の歴史に由来します。

 ラグビーは一八七一年、イングランドで誕生したとされます。すぐに国際試合も始まり、植民地出身者も本国の代表になれるのかが問題になった。二十世紀初頭には、出生地、居住年数、両親の出生地を条件とする現在の規定の原形ができます。

 国際統括団体ワールドラグビーの前身、IRFBがつくったのですが、すぐには広まりませんでした。IRFBは一九七〇年代まで英国や旧英領など八協会の団体で、アジアや欧州などは別の国際団体があった。転機は八七年から始まるW杯。英国の事情でできた規定を、日本も強化のために使い始めます。

 以来、日本代表の海外出身者には常に賛否両論がありましたが、今回、劇的に変わりました。「ワンチーム」が象徴する多様性の相乗効果が、もっぱらポジティブに語られました。

 でも、現実社会とのギャップはあまりにも大きい。劣悪な労働環境にいる外国人もいます。「日本のために貢献する海外出身者ならば認める」という一種のヒエラルキーが見えてきます。人口減による実質的な「移民」が増える中、日本代表の協働がまぶしく映り、理想像を投影されたのだと思います。

 私も今回大会を会場やテレビで観戦し、素直に感動しました。ただ、盛り上がった半面、検証すべき点もあります。

 例えば花園(大阪府)、熊谷(埼玉県)のラグビー場。常に観客が来るラグビー文化をつくり、大規模な改修費に見合った運用を続けられるのか。釜石鵜住居復興スタジアム(岩手県)は、東京五輪がトーンダウンさせた「復興」の意義を引き受けた側面がある一方で、原発事故で今も帰宅できない人がいる福島県の現実を忘却させる、とも言えます。

 来年の東京五輪では七人制ラグビーがあります。W杯とは違い、他の五輪競技のように「国籍主義」の日本代表です。「真の日本人」的なものが語られるかもしれません。

 日本代表も「ワンチーム」になるまで多くの衝突と工夫があったはずで、多様性の美談として消費しては意味がない。スポーツは非日常だからこそ、不安の裏返しの希望を投影される。日常に帰った今、共生の作法と仕組みを考えなければいけません。

 (聞き手・谷岡聖史)

 <まつしま・つよし> 1981年、埼玉県生まれ。ラグビーを中心にスポーツとナショナリズムの関係などを研究。高校、大学はラグビー部。ポジションはフランカー。

 ※お断り 次回は1月6日。以降、月曜掲載になります

 

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