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【論壇時評】

反緊縮の経済政策 問われる野党の出方 中島岳志

 今年に入って経済学者の松尾匡(ただす)(立命館大学教授)が代表・呼びかけ人となった「薔薇(ばら)マークキャンペーン」が始まった。これは四月の統一地方選挙と夏の参議院選挙に向けて、立候補予定者に「反緊縮の経済政策」を提起し、趣旨に賛同する候補者を「薔薇マーク」に認定するキャンペーンである。具体的には、消費税の10%増税凍結(景気対策として5%に減税)や財政出動、最低賃金の引き上げ、長時間労働・賃金抑制を強制する企業の根絶、外国人技能実習制度廃止、大企業・富裕層の課税強化などを「薔薇マーク」付与の条件としている。

 一月五日付けの「趣意書」では、野党に対して、安倍内閣に対するオルタナティブ(既存のものに代わる)な選択肢を提示するよう強く求めている。職を失う不安やパワハラ、「サービス残業」、介護や育児の負担、賃下げなどで五割を超える人が「生活が苦しい」と答えているにもかかわらず、多くの国民が「投票したい選択肢がない」と感じているのではないか。それは野党側が、魅力的な経済政策を打ち出せていないことに原因がある、というのだ。

 政府は十月に消費税を10%に増税しようとしている。もし実行されれば「個人消費はさらに冷え込み、デフレはさらに深刻化、経済へのダメージは確実」である。だから、野党側は民主党政権の反省を踏まえ、「安倍政権の経済政策に対抗できる、『反緊縮』の選択肢」を提示すべきである。そう訴える。

 ブレイディみかこ、松尾匡、北田暁大(あきひろ)の共著『そろそろ左派は<経済>を語ろう レフト3・0の政治経済学』(亜紀書房、2018年)の中で、北田は日本の左翼が「下部構造」の問題を忘れてしまっていると批判する。下部構造とは、社会の土台を構成する経済の仕組みのことで、マルクス主義では政治・法律・文化などの上部構造は下部構造に規定されているとされる。しかし、近年の左翼はこの下部構造を疎(おろそ)かにし、積極的な経済政策を打ち出そうとしない。何としても景気を回復させようとする努力がみられず、デフレによる貧困層の苦境が加速する。

 松尾は、同書の中で「経済成長」を二つに分類する。一つ目は供給能力の拡大を意味するもので、社会の生産力を拡大し、「長期の成長」を目指す。この経済成長のためには、人口増や技術革新などが必要となる。一方、二つ目は需要の側から見た経済成長で、不況を脱するために政府が市場に介入し、人々の需要を喚起することで「短期の成長」を目指す。松尾は二つ目の経済成長を重視し、政府の積極財政を推進する。「短期の成長」は再配分政策と一体化した形で行われる必要がある。

 当然、逆進性の強い消費税は、貧困層が最も割を食うため、大きな問題となる。デフレ不況下での消費税増税は、社会全体の消費にブレーキをかけ、景気の悪化を引き起こす。そのしわ寄せは、真っ先に貧困層を直撃する。だから「薔薇マークキャンペーン」は、消費税増税に強く反対し、逆に景気刺激策として5%への減税を提起する。これは租税負担率を下げる「小さな政府」路線ではない。むしろ景気回復によって税収を増やすとともに、法人税増税などをセットとすることで、再配分機能を強化する政策だ。

 この「薔薇マークキャンペーン」の提起を、野党はどのように受け止めるのか。

 最大野党・立憲民主党の枝野幸男代表は、経済ジャーナリスト・荻原博子との対談(『女性自身』1月29日号)の中で消費税増税に反対の立場を鮮明にし、「格差是正」こそが景気対策であることを訴える。「所得が低めの人の賃金、所得を底上げ」し、「将来への不安を解消する」ことで、社会全体の消費を上向きにすべきだと説いている。

 あとは消費税5%への減税に踏み込むことができるかだろう。民主党政権時代に消費税増税路線をとったことを率直に反省し、大企業・富裕層への課税強化による財源確保を明確にしたうえで、「反緊縮」路線を採用することができるかが問われる。

 「薔薇マークキャンペーン」は、野党興隆の起爆剤となるのだろうか。参議院選挙に向けて注目が集まる。

 (なかじま・たけし=東京工業大教授)

 

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