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【論壇時評】

百田尚樹現象と山本太郎現象 「反権威主義」の共通点 中島岳志

 ベストセラー作家・百田尚樹。ツイッターではヘイトスピーチまがいの発言を繰り返し、批判を浴びる。やしきたかじんと妻さくらを題材にした『殉愛』(幻冬舎、2014年)や右派的歴史観を押し出した『日本国紀』(幻冬舎、18年)では、事実誤認やミスが多く指摘され、問題視される。

 しかし、百田の書く本は売れ続け、影響力を持つ。一体、百田尚樹とはいかなる人物なのか。なぜ百田は売れるのか。

 石戸諭「日本を席巻する『百田尚樹現象』」(『ニューズウィーク日本版』6月4日号)は、本人や幻冬舎社長・見城徹などの関係者へのインタビューを含め、徹底した取材によってその実像と現象の正体を明示しようとする。

 ポイントは「ごく普通」であること。

 インタビューに応じた百田は一人でやってきて、どんな質問にも丁寧に答える。横柄な態度はなく、冗談を連発する「善良な『大阪のおっちゃん』だった」という。「ツイッターから攻撃的な人物を想像していた私は正直、面食らっていた」

 よく知られるように、百田は朝日放送のテレビ番組「探偵!ナイトスクープ」のチーフ構成作家として活躍。分刻みの視聴率と格闘し、どうすれば視聴者を飽きさせないかを徹底的に考えてきた人物だ。彼は近しい人に「チャンネルを変えられないようにせんとなぁ」とつぶやいたと言う。

 視聴者を掴(つか)むためには、わかりやすさが求められる。構成作家は、視聴者の心を掴まなければならない。百田曰(いわ)く「自分は関西一ナレーションを書くのがうまい」。

 このテレビでの経験が、作家としての「読みやすさ」や「ストーリーテリングの妙」に繋(つな)がっていると石戸は指摘する。平易な日本語。山場を作って、飽きさせない展開。卓越したストーリー展開と構成力は「視聴率と向き合ってきたテレビでの経験を応用している」。

 ここで重要になるのが、「普通の人」の感覚だ。関西のテレビで求められるのは、わかりやすく、面白く、本音でぶつかること。百田がレギュラーを務めるインターネット番組「真相深入り!虎ノ門ニュース」の制作会社社長・山田晃は、やしきたかじんの番組現場でキャリアを積み重ねた人物だが、彼曰く、関西のテレビでは「『ええかっこしい』は嫌われ」る。

 では、「ええかっこしい」とは誰か。それはリベラルな建前を繰り返す「マスメディア」であり、それこそが「権威」とみなされる。

 百田が体現しているのは、「面白さ」とともに「反権威主義」である。この大衆的情念へのアプローチこそ、百田が「売れる」ポイントである。「百田尚樹とは『ごく普通の感覚を忘れない人』であり、百田現象とは『ごく普通の人』の心情を熟知したベストセラー作家と、90年代から積み上がってきた『反権威主義』的な右派言説が結び付き、『ごく普通の人』の間で人気を獲得したものだというのが、このレポートの結論である」

 この「反権威主義」は右派的言説だけでなく、左派的言説にも接続する。木下ちがや「『山本太郎現象』を読み解く」(『論座』WEBページ6月5日)では、いま起きている政治家・山本太郎ブームの中に、同根の構造を抽出する。「『情念の過剰さ』こそがポピュリズム政治の養分であり、山本太郎はそのエネルギーを吸収しながらポピュリスト政治家としての資質を高めている」という。

 ポピュリズムの特徴は反エリート主義である。エリートによって独占された既成の体制・秩序を打破し、民衆の本音や意思を実現しようとする運動こそが、ポピュリズムにほかならない。

 左派のエリート主義は次第に権威主義を纏(まと)い、大衆の情念から乖離(かいり)していった。そこを右派に奪われているのが、グローバル社会で進行する右傾化現象だろう。

 ポピュリズムは本質的にイデオロギー的な「左右対立」ではなく、階級的な「上下対決」である。この潮流を誰が掴むのかが、時代の分かれ目となるのだろう。一見すると真逆に見える百田尚樹現象と山本太郎現象の共通点にこそ、注目しなければならない。

 (なかじま・たけし=東京工業大教授)

 

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