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【経済Q&A】

独白 企業腐食編<5> ハゲタカがいるからこそ、新陳代謝が進む

リーマン・ショック後の変化について語る弁護士(笠原和則撮影)

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弁護士(46)

 外資系の企業やファンドが顧客だから、M&A(企業の買収・合併)の案件が多かった。それがリーマン後はめっきり下火。代わりに増えた相談が、「従業員を切りたい」。

 彼らは日本で買収と拡大を繰り返してきた。だから、今まで事業縮小を考えたことがなかった。潮目が変わり、外資はドライに人を切ろうと考えるけど、ここは日本。国内の法律に従わないと動けない。そう説明すると、「何でこんなに厳しいんだ」「日本の法律はおかしい」と怒るんです。

 もう一つの変化といえば、彼らは弁護士費用を値切るようになりましてね。僕ら国際系弁護士は、相談に乗る時間に応じてお金をもらうんだけど、何月何日どれくらい話したか、厳しくチェックされるようになった。景気が良い時はそんなことなかったのに。

 深夜のタクシー代も払ってくれなくなった。午前二時、三時まで働くから、当然乗りますよね。でもあっちは「何マイル以下は公共交通を使え」って。

 弁護士はいつも、主役ではなく黒子です。僕らの支えは、新聞に載るような大きい案件を手掛けること。あとは報酬。この二つの大きさが、自分の存在価値を測る方法だと思ってる。それを値切られたら、モチベーション下がりますね。

 待遇面での不満はあるけど、僕は外資やファンドの競争主義に共感してますよ。日本ではハゲタカ、って毛嫌いされるけど、誰かが“死肉”をついばむから、新陳代謝が進むわけで。市場が回復したら、外資はまた動きだしますよ。そのとき日本が相手にされないとまずい。外資が中国やインドに向かうなら、日本の将来がその程度とみられてるわけだ。

 リーマン後、日本の家族型経営が見直され、資本主義は強欲だと批判されたけど、そう思わない。資本主義は欲望をエンジンにして動き、競争で良くなっていくんだから。 

駅伝の精神再評価を

吉崎達彦 双日総合研究所副所長

 昨秋のリーマン破綻(はたん)以降、資本主義は強欲だとやり玉に挙がり、日本型家族経営が見直されている。それぞれの功罪をどう考えればいいのか。双日総合研究所の吉崎達彦副所長に聞いた。 

 弁護士さんが言うとおり、資本主義に競争はつきものです。しかし、強欲、つまり英語でいう“グリード”はよくない。そこに「自分さえよければいい」という欲がにじみ出ているからです。

 ただ経営者についてはある程度、アニマルスピリットが必要です。優れた経営者には、動物的な野心や勘が求められる。意味が通らず合理的じゃなくても、その豪腕で会社を引っ張ったり言葉に迫力がある人ほど良い経営をするものです。

 グリードより日本型家族経営がいいかどうかは分からない。経営に最善のものはない。常に刷新を続けることが最も重要です。

 ただ、私は日本に長寿企業が非常に多い点に希望を見いだします。町を歩けば、中小も含めて創業百年以上の企業がごろごろしている。これは、欧米に比べても非常に珍しい。戦後の混乱とか、幾多の困難を乗り越えてきた企業が、いかに多いかということ。

 日本人は駅伝が好きですよね。自分を犠牲にしてでも何とかたすきを次につなごうとする、あの気持ち。企業経営もそうです。自分の代で倒産は避けたいとあらゆる知恵を絞り、みんなで困難を乗り越える。こんな日本人のDNA(遺伝子)こそ今、見直されるべきでしょう。

 では最近の企業経営はどうか。この良き伝統が、株主重視経営でより薄まっている。

 私が一九八〇年代に商社に入社した当時、利益の量が求められる時代だった。多くもうけて、自己資本も多いほど偉い。しかしバブルが崩壊し、九〇年代以降は量から率へと経営のものさしが変化します。

 たとえば「株主資本利益率」。字のとおり、株主の資本がどれだけ利益になったかを示す比率です。だが、株主が会社にこの比率の向上を求めたため、その株主の投資を助言するコンサルタントや金融マンたちも口にし始めた。これでは経営者が萎縮(いしゅく)してしまう。

 テーブルでポーカーをする場面を想像してください。プレーヤーがカードを吟味していると、後ろに立って見物している人々が、あれこれ口を出す。これではゲームに集中できない。投資家の場合、プレーヤーである企業側にお金を貸す分、必要以上にあれこれ口を出す。

 今の日本の経営は、口出しに左右されがちです。「赤字事業を切れ」「余剰資金は別の投資に回せ」などと指示される。これでは、経営者のアニマルな感性は生かされない。

 今回の金融危機の背景には、後ろに立つ人の増加があるといえる。実業をする人たちより、巨額マネーを背景に派手なゲームを要求する“後ろの人たち”が増え、強欲化していった。産業界より金融界が肥大化してバランスが崩れた。

 幸せを求めるとき、直接的に求めない方が良いといいます。これは経営にもいえる。私はマネーより現物の動きを信用します。

<デスクの独白>

 海外で「女房にお小遣いをもらっている」と話すと必ず驚かれた。小遣い制度は日本型家族経営の典型。亡き父も、よく母に頭を下げ小遣いをもらっていた。息子(16)も今、当然ながらもらっているが、将来も相手が変わるだけだろう。親子三代、日本型DNAは駅伝の精神で継がれていくはずだ。

 

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