東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 経済 > 紙面から > 9月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【経済】

トランプ流交渉 懸念現実 米主導権 車追加関税で脅し

 日米貿易協定は、米国離脱前の環太平洋連携協定(TPP)で合意していた日本車や自動車部品の関税撤廃を見送り、米国の主要な農産物の関税をTPP並みに下げるなど日本側の譲歩が目立つ内容になった。交渉は、日本車に追加関税を課す脅しをちらつかせた米側が、終始主導権を握った。 (皆川剛、ニューヨーク・白石亘)

 「日米双方にウィンウィンの結論。わが国経済の成長につながる」

 トランプ米大統領とともに協定の共同声明に署名した安倍晋三首相は、二十五日の会談後の記者会見で強調した。

 しかし、わずか一年という異例のスピード決着となった二国間交渉に対して厳しい見方があるのは事実だ。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は、「上がらなくてよい土俵に上がらされ、自ら土俵際に後退した上で始まった相撲だった」と評した。

 TPPを離脱した米国は、牛・豚肉や小麦などの対日輸出でTPP加盟国のオーストラリアなどに比べ不利な競争条件に置かれた。日本側は当初、TPPへの復帰を促す方針だった。

 だが、二国間交渉にこだわるトランプ氏が「安全保障上の脅威」を理由に、米国の対日貿易赤字額の六割を占める日本車に25%の追加関税を課す可能性に言及。基幹産業への打撃を考慮すると、「交渉中は追加関税を発動しない」ことを条件にテーブルに着かざるを得なくなった。

 さらに、交渉の出発点となった昨年九月の日米共同声明で、日本側は米国産農産物への市場開放について、TPPを念頭に「過去の経済連携協定が最大限」と約束。最初から「最大限の譲歩ライン」を開示してしまった。

 米側からすると、TPP以上の開放を要求し最後にTPP並みに収めれば「譲歩」の姿勢を示せる。TPPで合意していた日本車の関税撤廃をはねつけても「バランスの取れた決着」と言えてしまう状況を日本がお膳立てしてしまった。

 日本側は今回、自動車へ追加関税を課さない確約を米側から得たことを「成果」とするが事態は逆だ。

 TPPなど加盟国全ての利益を重視する多国間交渉では通用しない安全保障名目の追加関税を、政治力がものをいう二国間交渉に持ち込んで交渉カードにする。そうしたトランプ流外交が有効であることを、「自由貿易の旗手」(安倍首相)を自任する日本が示してしまった格好だ。

 追加関税回避の確約も、実効性は心もとない。共同声明の文言は「協定が誠実に履行されている間は協定や声明の精神に反する行動を取らない」とあいまいな表現にとどまった。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は「現時点では」日本車に追加関税を課すことは考えていないと含みを持たせた。

 元米商務省高官で米戦略国際問題研究所(CSIS)のウィリアム・ラインシュ研究員は「日本はもっと確固たる保証が欲しかっただろう。メキシコの例を見れば明らかだ」と語る。メキシコは北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しに協力したのに、不法移民の流入が国家非常事態だとして、トランプ氏に制裁関税の標的にされた。

 今回、農産物で「最大限」の譲歩をした日本には、今後の対米交渉で使える交渉カードに乏しい。農家と自動車工場の白人労働者の双方に成果をアピールしたトランプ氏が、TPPに復帰するインセンティブもなくなった。

 自由貿易体制をリードする立場のはずの日本は、国益という意味でも国際社会への貢献という意味でも悪手を打ったと言えそうだ。

写真
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報