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【経済】

対談(下) ノーベル化学賞・吉野彰さん × トヨタ・豊田章男社長

 2019年のノーベル化学賞を受賞した名城大教授で旭化成名誉フェローの吉野彰さん(72)と、トヨタ自動車の豊田章男社長(63)が対談した。未来を見通す大切さや危機感などについて語り合った1回目。今回の話題はIT革命からモビリティ革命へ。第三の人物も登場?

ノーベル化学賞・吉野彰さん

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 リチウムイオン電池を発明した吉野さんの受賞を後押ししたのは、電気自動車(EV)の台頭だった。

 豊田 「ノーベル賞になりそうだ」というのはいつごろからですか。

 吉野 初めてのノミネートは二〇〇〇年だと思います。モバイルITへの貢献が評価されましたが、それらの生産拠点の大半は中国、東アジア。欧州の人にはあまりインパクトがありませんでした。風向きが変わったのがEV。欧州でも電池産業が生まれる。いわゆる当事者意識というか。リチウムイオン電池が環境問題とリンクするというシナリオが出たことで、ひょっとしたらと思いました。

 豊田 自動車は非常に裾野が広い産業で、それぞれが国家を背負っているところがあるんですよね。

 話題は電池をきっかけに、「CASE(ケース、※1)」と総称される自動車業界の大変革に膨らむ。

 豊田 実は先生の前で申し上げるのは、なんなんですが、EVにはちょっと後ろ向きだったんです。

 吉野 ははは(笑)。

 豊田 個人的にはガソリンが血に流れてますから(笑)。業界には新たな競争相手としてテクノロジーカンパニーなど、車の走る、止まる、曲がるをやってこなかったグループが入ってきます。どうしても、EVはコモディティー(汎用(はんよう)品)になってしまう可能性があるなと。EVでも味があるものにしたいというこだわりがあります。電池は寿命(耐久性)や充電時間の長さといった課題もあります。さらなるブレークスルー(進歩)はいつごろだとお考えですか。

 吉野 電池の課題は三つ。エネルギー密度と値段、耐久性です。三つを同時にと言われると非常にきついが、どれか一つなら、それほど難しくはありません。今後いろいろな車の(利用)パターンが出てくると、要求特性はそれぞれで変わってくると思います。

 豊田 当初、トヨタはEV化で遅れているという評判でした。こういう使い方なら、EVも良いんじゃないかという形が見つかったのが、「e−Palette(イーパレット=箱型の多目的自動運転EV)」でした。「自動運転はもっと先」「それより先にEV化」などと(別々に)言われていました。それらがCASEという形で全部つながる。この二年、相当、投資をやりました。

 吉野 そう、つながっていくんですよね。(不特定多数が多目的で使う)シェアリングになると稼働率が上がり、電池も含め、車の耐久性が重要な要素になります。

 豊田 (多様な移動サービスを提供する)MaaS(マース、※2)業者から、トヨタのリアルな世界の耐久性に評価をいただき、声を掛けてもらっています。

 吉野 やはりそうですよね。マースはこれから具体的な(サービスの)イメージが出てくるでしょうが、車を使った新しいビジネスの大きなチャンスがあると思います。

トヨタ・豊田章男社長

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◆大変革の鍵

 車の大変革を読み解く鍵は何か。吉野さんはそれをIT革命に重ね、豊田 社長は危機感を率直に語る。

 吉野 IT革命が始まってからずっと世界の変化を見ていますが、一番面白かったのはスマートフォンの登場です。そのスマホ向けに、(米IT大手)グーグルが「アンドロイド」というOS(基本ソフト)を無償供与して、グローバルスタンダードになった。自分たちのビジネスに都合がいいようにソフトウエアを更新して、あれだけの利益を上げる会社になった。

 豊田 そうですよね。今までの製造業のビジネスモデルに固執していては、あそこまでいけなかった。

 吉野 グーグルは自動運転でもソフトの無償供与を宣言して、同じ戦略を考えている。おいしいビジネスモデルがマースだと思う。

 豊田 車のリアルの部分で、グーグルはすぐに車を造れないと思うんです。そこでどこが選ばれるか。どんなソフトにも対応できるということが必要になってくる。ところがわれわれはやっぱりハードウエア(車造り)をずっとやってきた会社。それを急に、ソフトを上流に持ってきなさいと言ったところで、その流れを変えていくことに大変苦労をしています。抵抗にもあっています。

 吉野 マースに車を最適化することが、製造業の使命になる。それはそれでやった上で、車を使ったビジネスもやる。一生懸命造った車を人に売るのはもったいない。むしろその車を使ってどうビジネスにつなげるか。

 豊田 そうなると、(トヨタが開発中の)イーパレットのような車が、靴屋にもオフィスにも美容院にもなります。今は人が動いて、いろいろな物を調達しに行きましたが、これからはあまり人が動かず、物が動いてくる。そこにモビリティを使ってほしい。わが陣営も、そこで選ばれる会社になっていないと、完全に終わってしまう。感動を与える乗り物をつくらないと。

◆車社会の未来

 車社会の未来について語り合う二人。話題は、トヨタの新構想へ。

 豊田 先生はそういう想像をいつも、たくましくされているんですか。

 吉野 基本的に想像することが好きだと思います。自動車については、五年ほど前に出た、未来の車社会についてのリポートを読んで、その通りに世界が変わった時、じゃあ最後は電池はどうあるべきかというところに戻っていきますのでね。好奇心なんでしょうかね。

 豊田 あー、なるほど。

 吉野 リチウムイオン電池も、まさにIT革命とともに成長してきました。IT革命がスタートしたのは一九九五年で、高密度集積回路(LSI)や衛星利用測位システム(GPS)の進歩が始まる時期です。そういうものは、要件が整った時に急に動きだす。

 豊田 年初に私たちが(新技術の実証都市)「ウーブン・シティ」=イメージ図=の構想を発表したのは、そういう理由もあります。CASEやマースも、互いにシンクロ(同調)し、つながりあっていないと、あまり便利なものではないですよね。

 吉野 そうです。

 豊田 われわれの自動運転の目的の一つが、安全安心です。どうすれば安全で快適なモビリティがつくれるか考えるには専用のインフラがないと難しい。そういう実証実験の場として計画しています。

 吉野 コミュニティー的な車社会ができあがった時、車が人や物を動かさなければいけない。そこで大事な役目を果たすのが、自動運転車かなと。それでレストランに行くというのも一つですが、物を運ぶのも当然出てくる。そうなると、物流システムが根本的に変わって、ショッピングの概念もなくなってくる。

 豊田 人が動かないことが、一番の変化点になるんじゃないでしょうか。

 吉野 自動運転やIoT(モノのインターネット)は、本当の実用化の時期はだいたい二〇二五年ぐらいがターゲットになっています。ちょうど、IT革命が始まって三十年後です。何か、次の大きな変革があるんでしょうね。

 対談が行われたのは二月十四日。偶然の巡りあわせに、二人の距離はさらに縮まった。

 豊田 今日ですね、豊田佐吉(トヨタグループ創始者)の誕生日なんですよ。佐吉はずっと佐吉電池といって高性能な電池開発に社内で懸賞金をかけていた。ですから、今日は先生が佐吉に見えてしまいました。

 吉野 ははは(笑)。

 豊田 吉野先生の電池のお話とか、物事の考え方を聞いて、私は会ったことのない佐吉ひいおじいさんと話しているように感じました。ひいおじいさん扱いして大変申し訳ないですが。

 吉野 ありがとうございます。

 豊田 そんな気持ちで勉強させていただきました。ありがとうございました。

 吉野 またぜひ今度は赤ちょうちんか何かで、メディア抜きでやりましょう。

 ※1 CASE(ケース) 車がインターネットにつながるコネクテッド(C)、自動運転のオートノマス(A)、車を共有するシェアリング(S)、電動化のエレクトリック(E)の頭文字による造語。2016年に独ダイムラーが提唱し、自動車業界が対応すべき次世代技術・サービスの総称として一般的になった。

 ※2 MaaS(マース) 車や公共交通機関など多様なモビリティ(移動手段)を使った新しい移動サービスの概念「モビリティ・アズ・ア・サービス」の略称。欧州では移動方法の検索、予約、決済を一括にした定額サービスなどが始まっており、国内でもトヨタやソフトバンク、JR東日本などが検討している。

 

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