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【放送芸能】

政治に、社会に モノ申すROCK 結成26年ソウル・フラワー・ユニオン 中川敬

ライブで熱演するソウル・フラワー・ユニオン=撮影・石田昌隆

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 昨年暮れ、タレントのローラが沖縄の米軍飛行場の移設工事中止を求める署名を呼び掛けると、若い世代が賛同する一方で、「政治的だ」と否定的な意見も噴出する騒動となった。「干される」ことを恐れてか、日本では芸能人がこの種の発言を控える風潮があるが、そんなタブーも何のその、政治や社会に強烈なメッセージを発し続けるロックバンドがある。結成26年目を迎えた「ソウル・フラワー・ユニオン」。バンドを率いる中川敬(52)が「モノ申す」意義を語った。 (原田晋也)

 沖縄問題、憲法九条、反原発、反差別…。中川が書く曲はどれも「政治的」とされるテーマに向き合っている。自らも群衆の一人としてデモに参加し、政治や体制の批判をいとわない。「別にそんなに変わったことじゃないんやけど、周りの表現者を見てるとそうじゃないねんな、っていう感覚が若いころからずっと続いてる」と事もなげに語る。

 中川は十五歳で大阪のロック喫茶の常連になり、反体制を歌うロックや米国の公民権運動と関わりが深いソウルミュージックに親しんできた。中川にとって、音楽とは初めから「モノ申すもの」としてあった。政治的発言についても「世界基準で言うと別に普通のことでしかない。政治であれ、社会的事象であれ、表現者が思ったままに声を上げるのは昔から普通のこと」と明快だ。

 四年ぶりに出したアルバム「バタフライ・アフェクツ」も社会への問題意識に貫かれている。中川自身「かなり気に入ってる。最高傑作ですよ、これは」と高らかに自賛するほどの仕上がり。全て中川が書き下ろした新作十曲で構成。その中の「最果てのバスターミナル」は、入国管理局で理不尽な扱いを受ける外国人の問題を歌う。「愛の遊撃戦」は、多くの犠牲を出した沖縄戦を経験し、今もなお米軍基地反対を掲げて闘っている沖縄の人々へのエールだ。

 日本では政治的立場をはっきりさせるタレントやアーティストは少数派だ。中川は「みんな、業界から干されるのが怖いんやろうね」と推測し「日本では何となくややこしそうな人は使わない、という漠然とした空気が昔からある」と指摘する。

 その上で、その空気の正体をこう看破する。「中川みたいなやつを使ってはいけないと明快に思っている業界人は、実際のところ、少ないと思う。事なかれ主義から生まれる自主規制的な、日本的精神風土がぼんやりと支配してる。ある種、皆と同じ方向を向いて泳ぐ『メダカ社会』やね」

 思うことを思うまま正直に歌ってきたが、子どもが生まれた十年前ごろから自身についてこう考えるようになった。「こんなバンドが一つくらいこの日本列島にあるべきだ」と笑った上で「別に責任感とか使命感とかじゃなくて、次の世代のためにこういうアーティストが必要や、って思うようなところはある。まあ、自分の思うままに動くだけですよ」。

 東京電力福島第一原発事故後は「子どもたちの世代に、カジュアルに抗議の現場に行く姿を見せたい」と、子どもを連れて頻繁に反原発デモに出掛けるようになった。

 意見を示すことをためらってほしくないという次世代への思いからだ。「それは別に政治的な行動でも何でもないのや、っていうことを身体で表現したい。普通に、日常の中に異議申し立てはある。それを昔から人類は連綿とやってきている」

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 <なかがわ・たかし>1966年、兵庫県生まれ。アイルランドや沖縄、朝鮮、アイヌ民族などの音楽をロックと融合させつつ、社会批判性を持った作風を持つ。95年の阪神大震災後は、被災者を勇気づけようと避難所などでライブをして回り、震災1カ月後に書き下ろした「満月の夕(ゆうべ)」は話題となった。

 <工事中止を求める署名運動>米軍普天間(ふてんま)飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)移設に伴う名護市辺野古(へのこ)の新基地建設工事を止めるようトランプ米大統領に求める嘆願書の電子署名活動。署名は米ホワイトハウスの請願サイトを通じて行われ、30日以内に10万筆が集まると、米政府が回答することになっている。署名は期限内に約20万筆が集まった。

 タレントのローラのほか、りゅうちぇるやラサール石井、英ロックバンド「クイーン」のギタリスト、ブライアン・メイらも署名を訴え、大きな反響を呼んだ。一方で署名を呼び掛けるローラの発言には、主にネット上で「代替案を出せないのに正義ぶるな」「CM出演に影響が出るのでは」などの声も上がった。

◆芸能人発言批判 米と異なる日本のメディア体質原因?

 なぜ、日本では芸能人の政治的発言に批判や疑問の声が出るのか。メディア事情に詳しい成蹊大の西兼志(けんじ)教授は「タレントやアーティストを存立させているテレビなどのメディアそのものが、政治的な傾向を持ってはならないと想定されているからではないか」と指摘する。

 日本では放送法によって放送番組の政治的公平が定められている。一方、2大政党制が前提の米国などではメディアの党派性が強く、芸能人が自身の政治的立場を表明することは一般的だ。映画界を例に挙げると、俳優のレオナルド・ディカプリオは民主党支持者、俳優で映画監督のクリント・イーストウッドは共和党支持者だ。最近ではトランプ大統領についても人気歌手のテイラー・スウィフトが不支持を表明して話題となった。

 西教授は「日本で不偏不党や中立といった理念が疑われることなく振りかざされるのは、米国のような軸が不在か、機能していないからという面もあるのでは」と分析する。

 ローラに批判の声が集まったことについては「バラエティー番組で天然キャラとして有名になったことなどから、同様の発言をした他のタレントよりたたかれやすかったのでは」とみる。

 

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