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【放送芸能】

子ども時代の被災体験を演劇に 戯曲「静物画」 南相馬在住・柳美里、福島の高校生と挑む

演劇部員を指導する柳美里=福島県広野町のふたば未来学園高で

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 東日本大震災の被災地の中でも、東京電力福島第一原発事故の苦悩が続く福島と向き合う演劇や映画の製作が相次いでいる。福島の実像や住民たちの思いをどのように伝えているのか−。

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 芥川賞作家で劇作家の柳美里(ゆうみり)(50)は東日本大震災後、福島県南相馬市で書店を営む傍ら、高校生と演劇をつくっている。「あの揺れの中にいた子どもたちの姿を、演劇だからこそできる表現で伝えたい」と語り、いまは同県広野町のふたば未来学園高校の演劇部員たちと、目前に迫った戯曲「静物画」の東京公演に向け稽古に励んでいる。生徒たちの東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の記憶を織り込んだ作品だ。 (酒井健)

 2月下旬の放課後、同高校の教室で行われた稽古。「その時の自分を大事に」。柳の厳しい言葉が響く。演劇部員たちは生き生きとそのシーンに再挑戦していた。

 柳は震災直後から何度も訪れていた南相馬市の臨時災害FMラジオに2012年からレギュラー出演していた。15年春に神奈川県鎌倉市から南相馬に移り、昨春に書店「フルハウス」を開業した。

「静物画」の稽古に励む演劇部員ら

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 書店のトークイベントが縁で演劇部員の1人と知り合い、興味を抱いた。稽古などに足を運ぶうち、自身が21歳の時に生と死をテーマに手掛けた「静物画」を生徒たちの被災体験を盛り込んで大幅に書き換えることにした。昨年9月、柳が主宰する演劇ユニット「青春五月党」の23年ぶりの復活公演として書店併設の劇場で上演した。今回は初の県外公演だ。

 出演する生徒は計12人で、男子版と女子版がある。物語は教室を中心に進み、校庭には、防護服姿の除染作業員が幻のように行き交う。

 震災当時、生徒たちは小学生だった。台本では、生徒たちの震災当時の思い出が描かれる。大熊町の自宅に大切にしていたプラレール(鉄道模型)を置いて避難したこと、地震の揺れでこぼれる消火用バケツの水を掛け合い遊んだこと…。「(当時の自宅が)原発事故の帰還困難区域になった生徒も、津波で家が流された生徒もいるけれど、記憶の中の風景や自分は毀損(きそん)されていない」と柳。演劇を通じて「封じ込めていたつらい記憶を解放できる」と力を込める。

 柳によると、演劇とは「真剣な遊びであり、自分や気持ちを解き放つ場。昨年の公演でそれができたからこそ、生徒たちから『再演したい』と声が上った」。

 2年生の鶴飼夢姫(つるがいゆき)さん(17)は富岡町出身。半壊した自宅は取り壊され、町は今も一部で帰還困難区域の指定が続く。自宅周辺の指定が解除された後、「通っていた小学校にイベントで行った。懐かしかった。将来、都会に行ったとしても、ふるさとは富岡」。東京の観客に「被害で苦しい思いをしても、前向きに頑張っているところを見てほしい」と笑顔で話す。

 震災と原発事故から8年を経たいま、地域住民について「少しずつ、暮らしを取り戻しつつある。多くのものをなくしたけれど、そこには日常があり、喜怒哀楽がある」と柳は強調する。書店の開業や演劇を「少しでも、人の気持ちのともしびになればという思いで続けている」と語った。

 公演は15〜17日、東京・北千住の「BUoY(ブイ)」で。チケット購入は青春五月党「静物画」特設ウェブサイトや、ボクシーズ=(電)022・353・9755=へ。

<ゆう・みり> 小説家・劇作家。1968年、神奈川県出身。97年に小説「家族シネマ」で芥川賞を受賞。近著に「JR上野駅公園口」「ねこのおうち」など。演劇では、19歳で「青春五月党」を旗揚げ。93年に「魚の祭」で岸田国士戯曲賞を史上最年少で受賞している。

 

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