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【放送芸能】

災害FMノウハウ 「女川」から「むかわ」へ

あつま災害FMを訪れた大嶋智博さん(左)=北海道厚真町で

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 東日本大震災の被災地で、日常生活や地域のきめ細かい情報を発信したのが臨時災害FM(臨災FM)だった。東北では全て閉局したが、そのノウハウは昨年9月の北海道胆振(いぶり)東部地震の被災地で生かされている。宮城県女川町の局運営に携わった人たちが北海道に飛び、開局を支援、その交流は今も続く。「災害FMなんてないのが一番いい。でも現実に災害は起こるから」。被災者を勇気づけてきたラジオの経験は受け継がれている。 (原田晋也)

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 二月二十一日午後九時すぎ、厚真町で震度6弱を観測する地震が起きた。程なく、役場内の「あつま災害FM」のスタジオに町職員らが駆けつけ、臨時放送を始めた。昨年九月六日未明の地震では震度7を記録、三十六人が死亡した地域。二月の地震直後の放送では「慌てずに行動して」などと冷静に呼び掛け、深夜までライフラインなどの最新情報を流し、住民の信頼にこたえた。

 北海道では、震源に近い厚真、むかわの二町で臨災FMが開局した。むかわは既に閉局したが、厚真は二月の地震時でも力を発揮。その二局開局に尽力したのが、二〇一六年春まで放送していた「女川さいがいFM」のスタッフたちだ。

 女川町は津波の影響で防災無線が使えなくなり、臨災FMが炊き出しや給油場所などの情報の発信源として機能した。緊急時が過ぎた後も、住民の話を聞くコーナーなどを放送し、人々に頼りにされ親しまれた。NHKが同局をモデルにしたドラマを作り、全国的にも知られた。

 しかし、臨災FMはあくまで「一時的な措置」として、総務省から開設が認められた放送局にすぎない。公費や財団などが負担する運営費用の問題もあり、「役目を終えた」と判断されたら閉局の道をたどる。民間やNPO法人主導のコミュニティーFMに移行した例もあるが、被災地で年間数千万円の維持費を用意することは難しい。女川も資金不足などを理由に閉局、現在は一般社団法人「オナガワエフエム」として、ネットで地域の情報を発信している。全国のコミュニティーFMを通じた番組配信も行っている。

 こうした実績や、現在の活動が注目され、オナガワエフエムに白羽の矢が立った。北海道の二町が開局に動いたが、ノウハウがない。そこで道内のコミュニティーFMの連合組織と交流があったオナガワエフエムのプロデューサー大嶋智博さん(45)らが九月十五日に協力要請を受け、十七日に現地に飛んだ。

 「女川さいがいFMはいろいろな人の協力なくしてはやれなかった。次の災害が起これば自分たちが恩返しでお手伝いするのは当然」と大嶋さん。旅費や滞在費は手弁当。レンタカーで二町を行き来し、役場職員やボランティアに機材の使い方を教え、むかわ町で十九日、厚真町で二十日の開局にこぎつけた。

 放送は淡々と情報を読み上げるだけでなく、避難者を招いて話を聞いたり、音楽のリクエストを受け付けたりする柔らかなスタイル。それは、女川のFMで、気がふさぎがちな被災者を勇気づけようと、つくり上げてきた手法だった。

 避難生活が長引けば、いら立ちや不安を募らせる被災者も出る。「好きな音楽を聴くというのも、日常を取り戻す行為の一つなんです」と大嶋さんは放送の有効性を強調する。

◆続く放送 見守る

 オナガワエフエムと北海道の被災地は、臨災FMで結ばれた交流が続いている。二月中旬、大嶋さんたちが厚真、むかわ両町を訪れた際、記者も同行した。

 厚真町の「あつま災害FM」は現在も朝、昼、夕の三回、町職員が業務時間外の時間をやりくりして放送を続けている。町役場内のスタジオには、道内のラジオ局の勤務経験を生かし、放送を担当している町建設課の丸山泰弘さん(38)がいた。「仮設住宅に入っている人はまだまだ不安で、先が見えない。ラジオでは復興のスケジュールや町の考えをかみ砕いて説明し、少しずつ寄り添っていきたい」と意気込んだ。

 昨年九月末に閉局したむかわ町では「むかわさいがいFM」の運営を担当した町総務企画課の梅津晶さん(47)と、パーソナリティーの一人、主婦の久保田夕子さん(52)が大嶋さんたちと当時の状況を語り合った。

 役場の廊下の片隅を即席のスタジオに仕立て、夕方から一時間の生放送を届けた。住民を招いたフリートークもあり、避難所で生活する男子中学生が「段ボール製のベッドの寝心地が案外いい」と話すなど被災地の今を伝えた。

 十日余の時限FM局だったが、久保田さんは閉局後、町の中で「ラジオやってた人ですよね。もっと続ければよかったのに」と声を掛けられたという。梅津さんは「安心感を醸成する放送で、評価してくれた町民がいた」。次に大きな災害が起こった場合にも「(臨時災害FMを)迷わずやるでしょうし、やるべきだ」と断言した。

 大嶋さんは「短い期間だったけど、種をまけたような気がしてうれしい」と表情を和らげる一方、臨災局の課題も投げ掛ける。「いつ、どこでも災害は起こりうる。僕らはできることをやるが、僕らだけやっても仕方がない。誰が臨災局の運営を担うのか、運営費をどうするのか、平時から考えておかなければ」

<臨時災害FM> 大きな災害が起こった地域で、市や町を単位にマスコミでは伝えきれない情報を伝える地域限定のFMラジオ局。阪神大震災を機に制度化された。自治体の直接運営や民間団体による運営など多様な放送局の形態がある。東日本大震災では計30局が設置された。

 

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