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【放送芸能】

浪曲、上り調子♪ 生きのいい若手 ユニーク新作続々

寄席で魅了した玉川太福(左)=東京・新宿の新宿末広亭で

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 三味線の伴奏で節と啖呵(たんか)を繰り出し、「泣き」や「笑い」の物語を進める浪曲(浪花節)に、風が吹いている。第2次大戦後、テレビの隆盛などで衰退した話芸だが、中堅や若手による斬新でユニークな一席に、若い世代のファンもつき始めた。安定した人気の落語、新スターの台頭で注目が集まる講談に負けじと、「3大演芸」のもう一つ、浪曲も長らくの低迷を脱する好機到来。♪平成終わりの浪曲事情、お時間来るまでつとめます〜。 (神野栄子、酒井健)

 三月一日夜、東京・新宿末広亭。注目株の玉川太福(だいふく)(39)が、中入り後に登場すると満員の客席から「待ってました!」の掛け声。寄席では見慣れない浪曲独特のテーブル掛けがかかった演台につくと、「今日の関東地方のお天気は〜」と意表を突いたまくらでつかんだ。そして新作「地べたの二人〜湯船の二人」を小気味よい節回しで八分にまとめ、「ちょうど時間となりました〜」と締めた。

 進境著しい太福は二月、落語芸術協会(芸協)の準会員となり寄席に出られるようになった。浪曲界では一九六四年に死去した二代目広沢菊春以来、五十五年ぶりの芸協入り。「寄席の中に浪曲という彩りを必要としていただいたのがうれしい」と喜び「寄席はトリまでのチームプレー。和を乱さず、(持ち時間の)十五分で『浪曲って面白い』と思ってもらえるようにしたい」と役割を自任する。

 浪曲界には昭和初期から戦後、二代目広沢虎造らスターが出現し、落語や講談をしのぐ人気を集めた。しかし、娯楽の多様化などで衰退が進んだ。寄席の定席、東京・浅草木馬亭も観客の高齢化が目立つようになった。変化の兆しは、二〇〇〇年代に人気者となった故国本武春。“ロックンロール浪曲”など革新的な芸を打ち立て、後輩らに刺激を与えた。しかし、武春は一五年に死去、再び冬の時代かと思いきや、威勢のいい若手、独創的な高座を披露する中堅が現れ、女性も多数門をたたいた。太福は当時を「若手が何かやらなきゃと、(武春に)背中を押されるようでみんな気合が入った」と振り返る。

 太福の姉弟子、玉川奈々福が二月、東京・銀座の観世能楽堂で独演会を開き、二日間で計約千人の観客を動員した。初日はスタジオジブリの名作アニメを題材にした「浪曲平成狸合戦ぽんぽこ」を明るくパワフルな語り口で演じた。ジブリの鈴木敏夫プロデューサーが奈々福との対談コーナーで舞台に上がり「作品を思い出し、迫力の浪曲に聴き入った」と称賛した。

 古典をじっくり披露した二日目は、十二月公開予定の新作映画「カツベン!」の取材中に浪曲と出会った周防正行監督がゲスト。奈々福の声にしびれ、感銘を受けたといい「日本映画発展の素地には語り芸がある」などと語っていた。会を成功させた奈々福は「喜怒哀楽をストレートにぶつけるのが浪曲の魅力。自分の節をつくって、時代に愛される芸能にしたい」と手応えを口にした。

 奈々福、太福らの熱演や工夫を凝らした芸に刺激を受け、このところ若手が急増している。主に関東の浪曲師が所属する日本浪曲協会には今月、男女六人、三味線を弾く曲師志望も二人が入るという。主に二十〜三十代の若手という。協会の東家三楽会長は喜ぶ一方で「浪曲は自由な芸だが、人の心の琴線に触れる芸でもある。聴いてくれる人に寄り添える芸人を育てていきたい」と気を引き締める。太福は「以前は常連を満足させようと懸命だった。今は浪曲を知らない人に、いかに楽しんでもらえるかが大事とみんな気付いた。頑張っていきます」と気迫をみなぎらせたところで…♪お時間となりました〜。

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◆町田康が魅力語る 胸すく快感 安心感 

 浪曲好きで知られる作家でロックミュージシャンの町田康(こう)(57)に魅力などを聞いた。

 −いつ浪曲を聴き始めた?

 二十代後半ごろ。たまたま(二代目)広沢虎造の「清水次郎長伝」をカセットテープで聴き、体全体が気持ち良く、自然に引き込まれる感覚になった。落語や漫才は子どもの頃から好きだったが、浪花節は「もう古い」という印象だった。でも、現代を生きるわれわれの感受性に十分つながり、感動できると気づいた。ロックや洋楽とは比較対象でなく違う次元の魅力。

 −小説の文体に浪曲の影響はありますか?

 語り芸全般から影響を受けているが、浪曲だと人の体の動かし方や気持ちの動きの表現がそれに当たる。すごく短い言葉、一言で表している。また、独特の間合いもそう。例えば(清水次郎長伝で)「持った杯ばったと落とし」という表現がある一方で「持った杯そっと置き」とも語られる。驚くべきことに接して、杯を「そっと置き」と表現することで、その人(森の石松)が貫禄のある人だと表している。

 −浪曲の魅力は?

 浪曲は庶民の娯楽だから、言葉は古くても、そんなに難しくない。虎造は特にそうだけど、ものすごく分かりやすく、誰でも楽しめる。物語もシンプルで、純文学のように矛盾をはらんだまま終わるのではなく、悪人がやっつけられたり、(聴衆が)なってほしいところに落ち着く。その快感、安心感がある。

 −今後の浪曲界に一言。

 浪曲は形に縛られる芸ではない。浪曲をやる人が増え、個性を発揮してもらえたら。人間を語るのに適した芸だから、(演目の)ネタは現代に限らず、たくさんある。偉人伝でも犯罪者列伝でも、生々しく語ることができると思う。

 

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