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【放送芸能】

VR 新時代のアイドル 改元カウントダウンライブ体感

仮想空間上で熱唱するYuNi。右側にいる水晶のようなものが来場者のアバター

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 新しい時代を迎え、エンターテインメント界にも変革の波が到来しようとしている。その一つ、大きな市場を持つアイドルの世界はVR(バーチャルリアリティー=仮想現実)がメインのステージとなるかもしれない。見慣れない装置を装着すると、その中ではCGやイラストの「VRアイドル」たちが歌って踊り、「握手会」だって開いている。平成から令和に移ろう瞬間、記者は仮想空間に入り、VRアイドルたちのカウントダウンライブで不思議な体験をした。 (原田晋也)

 四月三十日深夜から五月一日未明、「世界初のバーチャルシンガー」を名乗る「YuNi(ユニ)」の「さよなら平成カウントダウンライブ UNiONWAVE−clear−」があった。仮想空間上でのライブとは一体どんなものなのか、記者も体感した。

 ライブは、イベント用の仮想空間を提供するサービス「cluster(クラスター)」上で開催。ネットを通じ、最大五千人が家にいながらにして、同時に一つの仮想空間に入ることができる。記者はゴーグルとヘッドホンが一体になった「VRヘッドセット」をかぶって「入場」した。

装置を身に着け、VRライブを体験する記者=都内で

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 午後十時半、ライブ会場が「開場」。前売り券(六千八百円)購入者が次々と接続してきた。来場者は「アバター」と呼ばれる水晶のような物体で表示された。程なくアバターで埋め尽くされたが、仮想空間なのでぶつかることも視界を遮られることもない。

 開演。視覚と聴覚からライブに参加している感覚があるため、いやが応でも引き込まれる。YuNiの動きや表情は自然で、本当にそこにいて歌っているようだ。来場者は互いの声は聞こえないが、代わりにアバターの上にサイリウムや拍手の記号を表示して、一体感を出す。

 仮想空間ならではの演出も鮮やか。会場の背景が曲のイメージに合わせて一瞬で変わり、ハートの形をした花びらが舞ったり、ステージが浮いてYuNiが空中を飛び回ったりと自由自在。午前零時が迫ると、画面いっぱいにカウントダウンの数字が表示された。約二時間、記者は椅子に座っていただけだが、確かにライブの熱狂に触れた。装置は性能に差はあるが、千〜十万円程度で購入できる。

 サービスを運営し、ライブの企画や演出もするクラスター社の加藤直人社長(30)は、京都大大学院を中退後、三年間の引きこもり生活を経て起業したという経歴を持つ。「VR上の興行はもっと広がる。一般アーティストもVR上でライブをする流れは絶対に来る」と語る。

 SF好きで宇宙論や量子コンピューターの研究をしていたが、「これをやっていてもSFの世界は来ない」と中退。家にこもった。ゲーム開発の仕事を受託して生活費を稼ぎ、生活必需品はネットで購入。家から出なくても困ることはなかったが、唯一の不満が音楽ライブなどのイベント。「情報や物は届くが、熱い体験はネット越しには届かない」ともどかしさを感じていた頃、VRに出合ったことが起業の原点という。

 加藤社長は「『ここはVRの方が便利なんじゃないか』という分野が、オセロがひっくり返っていくように少しずつ変わっていくと思う」と未来を思い描く。VR上でのライブは、実際の会場を借りるよりはるかに低コスト。「少しずつ置き換わり、ふと気付いたら、SFみたいな世界に住んでいる。インターネットがそうだったようにVRもそうなると思う」

えのぐが開く握手会の様子。参加者は「仮想握手」やリアルな会話を楽しめる

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 昨年十一月、「世界初のVRアイドルユニット」の女性五人組「えのぐ」がシングルCD「ハートのペンキ」で、メジャーデビューを果たした。動画共有サイトでの番組配信やVR上でのライブを積極的に仕掛けていて、VR上で「握手会」まで行っている。

 握手会は、専用のコントローラーを操作し、VRの画面上に表示された「自分の手」をキャラクターの手と重ねる。触っている感覚はないが、握手中はメンバーと会話もできる。メンバー側からもファンの姿が見えていて、覚えてもらうために自分の名前を書いた名札を付けてくるファンもいるという。

 VR上のため、持ち時間が過ぎれば画面が切り替わり、握手をやめようとしないファンを強制的に移動させる「はがし」はない。近いうちに握手のために列に並ぶ必要もなくなるという。これまでのアイドルの握手会で起こった暴力事件や、ストーカーなどの心配もない。

 えのぐの所属事務所「岩本町芸能社」の丸茂雄大マネジャー(32)は「アイドル好き以外の人もハマるだけの魅力はある」と手応えを口にする。一方で「体験したことがない人にはイメージしづらく、現実のアイドルやアニメと何が違うのかをどう伝えていくのかが課題」とも話す。

 まずは触れてもらおうと、四月にはVR機器を持ったスタッフを仙台市に派遣、握手の体験会を開くなど、生身のアイドルばりに地道な活動にも取り組んでいる。丸茂マネジャーは「将来、VRのタレントが音楽番組やバラエティー番組に出演するのが当たり前の世界になってくると、世の中面白くなる」と夢を語る。

◆演者の存在 言及はタブー

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 VRアイドルは外見はCGやイラストだが、現実には演じ手が存在する。センサーで人間の動きや表情を感知し、キャラクターの動きに反映させている。歌や会話も演者が担当しているが、演者の存在は“暗黙の了解”で言及はタブー。ファンはVR上に現れるキャラクターを生身のアイドルのように応援する。

 昨年、アバター(分身、化身)を用いて動画配信する人「V(ブイ)Tuber(チューバー)(バーチャルユーチューバー)」がブームになった。これも同様の技術で、実際の演じ手はそのキャラクターの「魂」と呼ばれる。VRアイドルもVTuberのように動画投稿サイト上に動画を投稿していることが多い。注目を集めた「初音ミク」がバーチャルアイドルと呼ばれることがあるが、もともとは人の声を元にした音声合成ソフトを擬人化したもの。「魂」にあたる実際の人は存在しない。

◆スキャンダルなく応援、安心できる

 <アイドルに詳しい社会学者で「アイドル進化論」などの著書がある太田省一さんの話>平成のアイドルは、頑張って成長していくプロセスを見せるというドキュメンタリー性を前面に出して成功してきたが、ファンにとっては応援するアイドルのスキャンダルや卒業の不安も抱えていた。一方で、昭和のアイドルのように距離を置いたところから憧れるという考え方もある。

 スキャンダルがない初音ミクなどのバーチャルなアイドルは、安心して応援できることが人気の理由の一つ。VRアイドルはバーチャルな上、生身のアイドルのようにコミュニケーションできるというメリットが加わっている。ただ、これまでのアイドルと全く入れ替わることはないだろう。生身の人間の方に魅力を感じる人も当然多い。好きになるアイドルの選択肢の一つとしては有力なものになるだろう。

 

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