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【放送芸能】

目に物見せよ!二つ目 噺家(はなしか)過多で「戦国時代」

「芸協カデンツァ」の旗揚げで意気込むメンバー=東京・新宿で

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 二つ目諸君、今こそ芸を、個性を磨け−。落語界で前座の後、真打ち前の「二つ目」の存在が注目を集めている。イキのいい若手をユニットで売り出して成功した落語芸術協会(芸協)は、第2弾ユニットを旗揚げし、二匹目のドジョウを狙う一方、明日の名人を夢見て地道に精進する面々もいる。アプローチはさまざまだが、真打ち昇進後の激しい競争に備え「二つ目のうちに開花を」という思いが透けて見える。 (神野栄子)

 四月中旬、東京・新宿で二つ目ユニット「芸協カデンツァ」が旗揚げ会見を開いた。メンバー十人を代表して瀧川鯉津(たきがわこいつ)(45)は「AKBグループみたいな研修生制度をつくり、オーディションも開きたい」と吠(ほ)えてみせた。

 ユニット名はオペラや協奏曲で「自由で即興的な歌唱、演奏」を意味するイタリア語。それに芸協の事務局が入る施設名「芸能花伝舎」をかけて命名された。元放送作家の鯉津、元漫才師の桂竹千代(32)、吉本新喜劇出身の笑福亭希光(39)ら一癖も二癖もある面々がそろう。会見後の公演では、古今亭今いち(30)や竹千代らが爆笑の新作を披露、上々の船出を飾った。

 カデンツァが意識するのは、二〇一三年に結成した先輩ユニットの「成金(なりきん)」。イケメンやスター予備軍を集団で売り出し、定期公演などで旋風を巻き起こした。柳亭小痴楽(30)や“講談の革命児”神田松之丞(35)らスターも輩出した。メンバーの真打ち昇進に伴い、成金は今年九月に解散するが、その精神や定期公演などのノウハウは継承される。

神田連雀亭で二人会を開く柳家吉緑(右)と三遊亭兼太郎=東京都千代田区で

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 芸協は伸び盛りの二つ目に着目し、ユニットで切磋琢磨(せっさたくま)させ「客を呼べる芸」を磨かせる戦略に打って出た。背景には入門者が増え続け、もはや飽和状態という実状がある。一九八八年と今年を比べると、芸協は真打ち五十九人だったのが九十六人、二つ目も二十一人から四十五人。最大組織の落語協会も真打ち百五人が二百三人、二つ目四十七人が六十九人と大幅増だ。真打ちに昇進しても厳しい競争が待っていて、売れっ子になるのは一握りという現実がある。

 「二つ目にもっと勉強の場を」。落語愛好家のビルのオーナーらがそんな志を掲げ二〇一四年、東京都千代田区に開場した寄席「神田連雀亭」は二つ目だけが出演する。噺家(はなしか)が増え、二つ目の勉強の場が減ったという声を反映させた常設の高座だ。両協会に加え、落語立川流、五代目円楽一門会などの面々も芸を磨く。

 五月下旬の夜、落語協会の柳家吉緑(きちろく)(34)と五代目円楽一門会の三遊亭兼太郎(30)の二人会があった。昨夏以来毎月開き、長講にもチャレンジしている。吉緑が「兼太郎の大胆でおおらか、明るい高座が刺激的」と語れば、兼太郎も「柳家一門の丁寧で繊細な語り口が勉強になる」。一門を超えた交流が芸の幅を広げ、地道な精進が芸のこやしとなっている。

 「戦国時代」といわれる落語界だが、近年の真打ち昇進は両協会とも年功序列の状況。かつてあった「〇人抜き」のような抜てきは見られなくなった。また、落語家には定年がなく、特に真打ちは過剰気味。演芸関係者は「埋もれずに活躍するためにも、二つ目時代の修業が大切だ」と指摘する。落語評論家の広瀬和生(59)は「ユニットもいいと思うが、あくまでスタート地点。二つ目は真打ち昇進後、ダッシュを決めるための助走期間で、貪欲に新しいことに挑戦して持ちネタを増やす時期。真打ちになると失敗は許されない。売れっ子の真打ちはみんな二つ目時代、猛勉強していた」と話す。

◆春風亭正太郎 こんな日常

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 二つ目はどんな日常を過ごしているのか。落語協会所属で、「分かりやすい高座」にこだわりファンを増やしている春風亭正太郎(37)=写真=にある日密着した。

[9:30]

 東京都目黒区の自宅近くの寺で高齢者向けに一席。その後、上野の鈴本演芸場に急行。

[12:30]

 高座で滑稽噺(ばなし)「権助魚」を軽妙な語り口で熱演。

 高座を終え、移動前に取材に答えてくれた。

 大学卒業後の2006年、春風亭正朝(しょうちょう)(66)に入門し、09年二つ目になった。入門時「師匠は噺の了見から技術的なことまで、一から十まで教えてくれた」と振り返る。古典の薫りは残し、無理にギャグを入れて噺の持ち味を壊さない−。そんな師の教えは自身の芸風に大きく影響したという。現在の持ちネタは約140席。二つ目になって100席以上増やした。「正直こんなに勉強する職業とは思わなかった」と漏らす。

[15:30]

 品川区鮫洲の花柳知蔵(ともぞう)、清元国恵太夫(くにえだゆう)父子を訪ね日本舞踊、浄瑠璃の稽古。日舞は5年前から、清元の浄瑠璃は1年前から習っている。小唄や端唄の舞踊では女形も学ぶ。知蔵と国恵太夫父子も上達ぶりに驚く。

[19:30]

 千代田区神田神保町の「らくごカフェ」で大ネタ「百川」などを口演、客席をうならせた。

[21:30]

 終演しひと息。「古典が好きだが、新しい風を入れたい。親しみやすく分かりやすいキャラクターをつくるため、頑固に勉強する。ぼんやりしている暇はない」

◆つるこ〜の「こうでないと二つ目」

弟子の希光(左)にエールを送る笑福亭鶴光=東京都台東区の浅草演芸ホールで

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 カデンツァのメンバー希光の師で、深夜放送「オールナイトニッポン」の名物DJとして一世を風靡(ふうび)した笑福亭鶴光(つるこ)(71)が若手に厳しくも温かい言葉を送る。

 −若き噺家(はなしか)の心構えを。

 自由を満喫したいだろうが、この時期が一番大事なんや。一生懸命落語を覚える。電車に乗っても人間ウオッチングをしたり、歩いてる時もネタ考えたり。

 −ユニット活動で留意すべきことは?

 集団になるとみんながライバル。友達にはなれん。誰かが売れ出せば「なんであいつが」とストレスもたまる。けれど、誰かを出すためには仲間が犠牲になる慈悲の精神も要るんや。

 −師匠が売れた時はどうでした?

 テレビやラジオに出るのはアルバイト。アルバイトしていいの、でも落語に戻ってこないと。(桂)米朝師匠は四十歳までテレビに出ていらしたが、四十でスパッと落語に戻られた。

 −弟子の希光さんは吉本新喜劇からの転身です。

 吉本で売れんもんが落語で売れるかどうか、別物だけどね。いま三十九歳か。立派な真打ちになってなあかんけど、無駄な人生経験が生かせるかどうか、だな。特技のバイオリンと落語を絡めた企画とかできるだろ。大阪は売れるためにメチャクチャやってるで。

 −売れっ子、実力派になるためには。

 噺家はオモロイ前に奇麗じゃないとあかん、それも売れる要素や。高座に出てきた瞬間、オーラみたいなものが出て、座っても羽織を脱いでもすべてが絵になる。それを身に付けるためには日舞も三味線も、能狂言も習いなさい。歌舞伎も見なさい。素養は真打ちになった時に生きてくる。

      ◇

 「芸協カデンツァ」は毎月第1、第3水曜の午後8時から、東京・新宿三丁目のフリースペース「無向有(むかう)」で定期公演を開いている。問い合わせは、芸協カデンツァ事務局=(電)090・5852・3966。

 

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