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【放送芸能】

創刊100年「キネマ旬報」志高く 批評と顕彰で権威

今年2月の「ベスト・テン」表彰式で夫婦そろって主演賞に輝いた安藤サクラ(左)と柄本佑=東京都文京区で

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 「キネ旬(じゅん)」の愛称で親しまれている映画雑誌「キネマ旬報(じゅんぽう)」が、1919(大正8)年7月の創刊から100周年を迎えた。存続する日本最古の映画誌は質の高い批評と情報を掲載し、映画ジャーナリズムを確立した。作品や映画人を顕彰する年間の「ベスト・テン」選出は雑誌としては世界的にも珍しい権威を誇る。発行するキネマ旬報社の経営は苦しいが「キネ旬らしさを守り、若い映画ファンを開拓して次の10年、20年を目指し、出し続けたい」と同社は志を掲げる。 (竹島勇)

 キネ旬の「ベスト・テン」は一九二四年に始まり、戦時中の中断を経て四六年に再開した。今年二月の授賞式で九十二回を数え、二九年五月に第一回授賞式が開かれた米アカデミー賞に先行するほどの歴史を誇る。

 別表のように、入選回数順では人気の巨匠が並ぶ。

(左)創刊号<1919年7月11日発行の創刊号> (右)最新号<20日発売の8月上旬号> 

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 現行のベスト・テンは、日本映画と外国映画で、評論家ら延べ百三十人以上の採点で決定。今年の第一位は日本映画が「万引き家族」(是枝裕和監督)、外国映画が「スリー・ビルボード」(マーティン・マクドナー監督)。主演女優賞は「万引き家族」の安藤サクラ、主演男優賞は「きみの鳥はうたえる」など三作品の柄本佑(たすく)で、初の夫婦受賞となった。

 柄本は取材に「出演作のスタッフが、キネ旬の評価を喜んでくれたのがうれしい。映画界が認めた、という思い。妻は授賞式で僕の受賞に感激して泣いてましたねえ」と笑顔で話す。師という父の柄本明に「キネ旬と毎日映画コンクールは俳優にはいい賞」と言われ、重みを実感したという。

 ほかの二作品「素敵(すてき)なダイナマイトスキャンダル」「ポルトの恋人たち 時の記憶」も全く違う役柄に挑戦した。「見た人の印象に残ったようでうれしい。役者としては明日の撮影で、どうせりふを言うかが大事」とさらりと話した。

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◆経営厳しいが…若いファン開拓

 創刊したのは東京高等工業学校(現東京工業大)生の田中三郎ら四人の同人。アート紙四ページで五百部を発行。定価は五銭で、うどんやそばとほぼ同額だった。米人気女優のマーガリータ・フィッシャーとドロシー・ギッシュの写真を飾り、米映画「ターザン」などの批評が載った。当初は月三回発行だったが、後に月二回に定着した。

 映画誌は明治後期から創刊が相次いでいた。背景として、その十年ほど前から東京など都市部で映画館が増え、娯楽として映画の人気が上がっていた状況がある。キネ旬は封切り映画すべてを記録する評論誌と、業界誌としての二つの性格を持つのが特色。戦時下に発行は一時途切れたが、五〇年に完全復刊した。

 テレビの映画番組で解説も務めた荻昌弘(一九二五〜八八)、品田雄吉(一九三〇〜二〇一四)らが執筆。白井佳夫(一九三二〜)は編集長も務めた。読者投稿の「寄書欄」からは双葉十三郎(一九一〇〜二〇〇九)、佐藤忠男(一九三〇〜)といった著名な映画評論家を輩出した。

 名物コーナーも多数。表紙イラストでも知られる和田誠(一九三六〜)が名せりふを紹介する連載「お楽しみはこれからだ」も人気を集めた。川本三郎(一九四四〜)の「映画を見ればわかること」は、今月二十日発売の「8月上旬号」で四百十回。落語家立川志らく(一九六三〜)の「立川志らくのシネマ徒然草」は五百三十一回を数える。米アカデミー賞の予想座談会も“定番”だ。

 しかし、インターネットが隆盛の時代、出版不況も続き、経営は安定せず経営母体の変遷をみた。二年前には、テレビ局に映画販売をする会社の子会社となった。

 三浦理高(みちたか)編集長(50)は「出版不況やネットで映画情報が無料で得られる中、部数が減り経営は厳しい」と話し、最近の発行部数は五万部という。ただ、「先輩たちの志を守り、編集方針は変えない」と明言する。その一方で、ウェブサイトの充実、小中学生対象の映画感想文コンクールと、創刊百年記念の「映画検定」の復活などで若い映画ファンを開拓し、読者増につなげる計画という。

◆評論家・佐藤忠男「海外でも例ない」

 映画評論の重鎮で、1950年代末から60年代にかけて雑誌「映画評論」編集長を務めた佐藤忠男(88)は「キネ旬は全作品の批評と、ベスト・テンの実施で早くから映画論壇の中心になり、執筆者は一流と見られた。映画会社も重視して、キネ旬執筆者だけを集めた試写会があったほどです」と話す。

 海外の映画事情に通じる佐藤は「これだけ長く続き、資料性が高く顕彰を続けている雑誌をほかに知りません」という。ベスト・テンの意義について「昔の映画について、キネ旬の順位を書けば、作品の質が伝わる」と称賛する。「雑誌経営は苦しいでしょうが、続けてほしいです」とエールを送る。

 

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