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【放送芸能】

「ミニ寄席」続々 ブーム追い風、地域に根付け

 東京都内には数百人収容の常設の寄席があるが最近、客席が数十程度の「ミニ寄席」が続々誕生している。地域住民が「気軽に行ける小屋」を目指して立ち上げたり、落語家自身が「勉強の場」のために一念発起して創設したりと趣旨はさまざま。落語はブームといわれるが、噺(はなし)家が増えすぎて飽和状態でもある。アットホームな雰囲気が特徴のミニ寄席は新たな落語の楽しみ方として定着するか。 (ライター・神野栄子)

■NPOが運営

いろは亭で熱演する三遊亭楽松=東京都北区で

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 七月下旬の土曜の昼下がり、東京都北区の住宅街のマンション一階にある「梶原いろは亭」では、真打ちの三遊亭楽松(らくまつ)(55)が人情噺(ばなし)「子は鎹(かすがい)」を熱演し、地域住民らが聞き入っていた。

 今年一月にオープンした四十五席のいろは亭を運営するのは、NPO法人「いろは苦楽部(くらぶ)」。当初は地域の高齢者らがパソコン教室などを開いていた組織だが、「落語で地域を盛り上げられないか」との機運が高まり、寄席を始めた。運営メンバーは約二十人、金銭面などでもサポートする「いろは友の会」には個人と法人合わせて約百人が名を連ねる。地元の商店や職人らも協力している。

マンション1階にある「梶原いろは亭」

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 場所はマンションのオーナーの好意で借り受けた。毎週月−水曜の昼席(午前十一時半開演)は若手中心。毎週土曜などに午後一時半開演の「週末昼席」は真打ちクラスも出演。芸人も協力的で口コミで広がり、開設から約半年で落語や講談、色物など出演者は百人を超えた。入場料千二百〜二千八百円。運営メンバーは「地域の人と協力しながら続けていくことに意味がある」と口をそろえる。今月からは最終金曜夜に「講談夜会」(八月は三十日)も始まる。

■ホームグラウンド

「にっぽり館」で客席を沸かせる三遊亭萬橘(左)と林家たけ平=荒川区で

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 日暮里駅から歩いて六分、荒川区の下町情緒あふれる地域に四月、「にっぽり館」ができた。真打ちの三遊亭萬橘(まんきつ)(40)と林家たけ平(41)の親友同士が「自分たちのホームグラウンドを持ちたい」と志を掲げ、すし店だった建物を改装。四十席の「マイ寄席」となった。寄席は月八日程度の開催だが「満員の日も多く、採算は取れている」とたけ平。

すし店を改装したにっぽり館前で意気込みを語る2人

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 二人は界隈(かいわい)で約七年、落語会を開いてきたが、「新たなステップ」として自前の高座にこだわった。萬橘は「ここを入り口として、“箱”も込みで楽しんでほしい」と強調。たけ平は「地域に根付いた寄席、観光スポットになれば」と夢を語る。二千五百円。十八日午後七時に公演がある。

■席亭は評論家

神田春陽の講談に聞き入る「向じま墨亭」の観客=墨田区で

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 墨田区東向島の商店街の外れに五月一日、「向じま墨亭(ぼくてい)」が開場した。「落語をなりわいにしてきた恩返しがしたい」と発起したのは地元在住の演芸評論家で、大学講師も務める瀧口雅仁(たきぐちまさひと)さん(48)。

 向島は「落語中興の祖」と呼ばれる烏亭焉馬(うていえんば)(一七四三〜一八二二年)が主宰の会を開いたことから、「江戸落語発祥の地」とされている。瀧口さんは自宅隣に十年以上も空き家になっていた築六十年以上の店舗を買い取り改装。一階は事務所、二階の六畳二間の座敷を約二十人ほどが入れる寄席にした。

墨亭の外観

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 オープン三カ月余。好評を博し、出演者のファンが遠方から駆けつけることもあるという。商店街関係者から「人を呼ぶきっかけになった」と喜ばれている。「まずは続けていくこと。ここに出たいという人が増えて、演者が成長していくのが楽しみ」と話す。

 不定期開催。千〜三千円程度。十八日午後二時から講談の神田春陽(48)の会、二十日午後七時からは古今亭志ん松(まつ)(34)、林家なな子(37)の二人会がある。

◆採算に知恵絞って

<演芸評論家の矢野誠一さん(84)の話> 昔は地域にたくさん寄席があり、落語家の生活が成り立っていた。最近は落語家が増え、若手には勉強の場が必要だ。飲食店などでの落語会も多いようだが、小さな寄席が増えてきたことは喜ばしい。何よりもお金を払って落語を聴きに行こうという人が増えたのはいいことだ。ただ、採算面などで思うようにいかないこともあるだろう。個人の力では無理と思った時でも知恵を絞って採算が取れる方法を考えてほしい。落語が好きで始めた道なのだから。

◆三遊亭好楽もマイ寄席 「若手育てる役目」

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 人気番組「笑点」メンバーの三遊亭好楽(73)は二〇一三年から台東区の自宅一階に、約四十人収容の「池之端しのぶ亭」を構え、若手の勉強の場として門戸を広げている。ミニ寄席のあるべき姿とは−。

 −開設のきっかけは?

 落語家になって五十数年、指導してくれた師匠や先輩方にお礼をしようと思ったけど、みんな亡くなった。ならば「若い人を育てるのが感謝だな」と思い「しのぶ亭」を構えた。私の最後の役目です。

 −自宅に「マイ寄席」、ぜいたくですね。

 昔は「壁に向かって百回稽古せよ」と言われていたが、壁は何も返事しないでしょ。一人でも聴いてくれるお客さまがいれば緊張もする。緊張感のある稽古を重ねていけば、うまくなるんですよ。

 −こだわりは?

 大事なのが緞帳(どんちょう)。緞帳が上がった瞬間の緊張感は得難いですから。

 −ミニ寄席の魅力は?

 何千人を前にした独演会もうれしいけど、目の前のお客さまがゲラゲラ笑ってくれる。これは落語家冥利(みょうり)につきます。客席に近いほど私はやりやすい。マイクなしで生の声を聴いてもらい、お客さまの反応も分かるところかな。

 −地域密着も図る?

 最近、地元の小学生三十人ほどが来て、私と弟子たちの噺(はなし)で爆笑した。手拭いまきやクイズ大会でも大はしゃぎ。子どもたちが落語に興味を持ってくれることはうれしい。

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