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【放送芸能】

首都圏で「発車」30年 「駅メロ」続くよどこまでも

JR新宿駅

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 ジリジリジリから心地よく個性的な音色へ−。駅のホームで列車の発車を告げるメロディー「駅メロ」が首都圏に登場してから今年、三十周年を迎えた。今や多くの駅で多彩な音が昼夜流れ、本来の乗降促進の目的だけでなく、ご当地アピールの役目も帯びるようになった。さまざまな音楽のプロが携わる駅メロ。十秒や七秒の短い作品に込められたメッセージとは−。 (藤浪繁雄)

井出祐昭

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 ■ヒントは「鐘」

 「世界で実例がほとんどない分野。三百ぐらい試作した」。一九八九年三月、JR新宿駅と渋谷駅で鳴った「首都圏第一号」の駅メロ。井出祐昭(ひろあき)は試行錯誤の日々を振り返る。当時ヤマハに所属し、音響エンジニアとして音楽ディレクターなども務めていた。JRのイメージ戦略の一環として、発車ベルの騒音性を解消する任務に携わった。

 駅利用者が不快感を抱かず、安全に乗降を促す音を求めて周波数なども調べた。そして行き着いたのが「鐘」だった。「世界で鳴り続けているその音響特性を調べた」と井出。日本の寺も西洋の教会の鐘も音域が広く、遠くに届く。「包み込む上、警報性も十分」。鐘の音の原理を応用して、ピアノやハープなどの音色も組み合わせ、駅メロを製作。新宿駅ではホームや番線ごとに使い分けた。ユニバーサルデザイン(誰でも分かること)にこだわり成功を収めた。

 駅メロの礎を築いた井出はその後独立し、「井出 音 研究所」を構える。愛知万博や医療分野、ロボット、携帯電話の「着メロ」など、幅広い分野の音響を生みだしている。

作編曲家の塩塚博(右)とスイッチの小川洋一会長=横浜市で

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 ■10秒で「完結」

 関西では七〇年代に導入歴がある駅メロだが、首都圏では九〇年代前半から注目され始めた。その頃から手掛けている作編曲家の塩塚博は「ほぼ十秒で完結し、短くても起承転結を持つ。音色は優しく爽やか、ストーリーも持たせること」と極意を明かす。JR中央線、総武線、山手線、東京メトロ銀座線、副都心線、京急…。編曲を合わせると約二百作に携わった。

 郷ひろみや稲垣潤一といった歌手に楽曲を提供したり、ラジオ番組のジングル(開始時やCM明けなどに流れる短い音楽)などを製作したりと引き出しは豊か。駅メロもクラシカルな作品、ジャズフュージョン調と作風に趣向を凝らす。

 塩塚を含めた音楽家たちの作品は、制作会社「スイッチ」がビジネスパートナーとして管理する。約六百曲を管理する小川洋一会長は「駅個々のイメージ、『ご当地駅メロ』を求める機運が広がってきた」と傾向を説明する。北陸新幹線の上越妙高駅「夏は来ぬ」、JR三鷹駅「めだかの学校」のように作者ゆかりの地に関連した曲を使うなど、地域おこしの側面も帯びているという。

 近年、塩塚が手掛けた東京メトロ副都心線などのように「七秒完結」が求められることもある。「作曲家としての矜持(きょうじ)」を掲げる塩塚は「『起承結』『起転結』の感覚でつくっている」とプロ意識をにじませる。鉄道マニアには、駅メロ好きの「音テツ」も増えた。同社は本物の音源をスマホなどで楽しめる「鉄道モバイル」を立ち上げ、ファンの心をつかんでいる。

向谷実

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 ■テツ愛の視点

 人気フュージョンバンド「カシオペア」の元キーボード奏者、向谷(むかいや)実は鉄道通として知られ、駅メロ作品も多い。「僕は後発組」というが、既に二百駅ほどの実績がある。東京メトロ東西線のように全線まとめて手掛け、一駅七秒の駅メロを順につなげて聞くと一曲になるという仕掛けも施す。

 「路線や駅のことは頭に入っていて、トータルでストーリーを考える。そのようにつくるのは僕が初めてじゃないかな」。東西線は、地上を走行する西船橋−西葛西駅あたりは疾走感や新興住宅街を意識した音楽、門前仲町駅あたりは下町情緒、日本橋駅は「お江戸日本橋」をアレンジ。目が不自由な人に配慮し、中野方面行き、西船橋方面行きで拍子やキーを変えて方向が分かるようにした。

 鉄道好きが高じて、軽量で安価なホームドアの考案や、運転シミュレーターの開発など、安全運行への貢献度も高い。「テツ愛」の視点で駅を利用する意義を考える。「駅メロが通勤や通学などの生活のリズムとして後押しできたらいいね。マイルストーン(道標)のようになってくれたら、作者冥利(みょうり)に尽きます」

◆デュオ「スギテツ」杉浦哲郎 「鉄道音楽、需要さらに増える」

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 「駅メロ」の普及は、鉄道に付随する音楽市場も築いた。

 クラシックデュオ「スギテツ」のピアニストで、鉄道に関連した楽曲を多くつくった作曲家の杉浦哲郎の話 鉄道と音楽は相性がいい。この10年ほどで、鉄道ファンはファミリー層などにも広がった。地域活性化にも有効と判断され、鉄道関連のイベントもかなり増えた。そうした背景から、路線や駅のイメージに合った音楽も多く生まれ、僕らも依頼をいただきます。クラシック分野をみると、東武鉄道のようにクラシック作品をもとにした駅メロ(池袋駅)や、地域のオーケストラが絡んだ作品など広がりを感じる。生活に欠かせない鉄道のイメージアップにつながる音楽は、乗り心地やサービスを追求するのと同じように、さらに必要とされると思います。

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 結成15周年のスギテツは、CM曲やアニメソングなどにクラシックの名曲を融合させた記念アルバム「SUGITETSU UNO SCHERZO」を発売。9月1日、東京・渋谷区文化総合センター大和田「伝承ホール」でコンサートを開く。

 

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