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【放送芸能】

ナウシカ 歌舞伎で舞う 壮大な物語、昼夜通しで■主演・菊之助「普遍的テーマ」

ナウシカの尾上菊之助(右)とクシャナの中村七之助

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 国民的アニメーション作家、宮崎駿監督の代表作の一つ「風の谷のナウシカ」の漫画版を原作にした歌舞伎が六日から、東京・新橋演舞場で上演される。壮大な物語の全てを昼、夜の部を通して描ききる。宮崎監督にとって「最も大事な作品」とされるナウシカ。名作の世界観をどのように傾(かぶ)いてみせるのか−。 (原田晋也)

 宮崎作品の歌舞伎化は初めてで、新作歌舞伎の昼夜通し上演は江戸期以来という。発案した尾上菊之助(42)が主人公ナウシカを、中村七之助(36)がトルメキアの皇女クシャナを演じる。

 菊之助は、来年の東京五輪に合わせて、海外に日本をアピールできる新作歌舞伎を五年前から考えてきたという。ナウシカを選んだ理由は「テーマの普遍性」。「戦争やエネルギー、環境、核、遺伝子などの問題まで描かれている」と説明。原作は完結から二十五年を経たが「現代の方が問題を身近に感じられる。テーマ性に現代が追いついてきた」と語る。

新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」の製作発表記者会見で意欲を語った菊之助(右)と七之助=東京都千代田区で

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 「普遍的なテーマの有無は、古典作品が残っていくかどうかにかなり関わっている。歌舞伎ファンにもジブリファンにも納得いただける作品にしたい」と言い、原作の世界観を大切にしつつ、伝統的な演出手法を用いて歌舞伎との「合流地点」を探るという。

 飛行シーンは、宙乗りなど江戸時代からの手法を駆使して疾走感を出す。映像は極力使わない。「トルメキア」「ガンシップ」などの固有名詞はそのまま登場。複数の勢力が入り乱れるが、沖縄の紅型(びんがた)など日本古来の民族衣装をモチーフに、勢力ごとに見分けやすく工夫する。音楽は久石譲作曲の映画の曲を三曲ほど使い、和楽器で演奏する。

 巨大な人型兵器「巨神兵」や王蟲(オーム)といった、人間よりはるかに大きい存在も登場するが、菊之助は歌舞伎舞踊「積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)」に登場する「桜の精」を例に挙げ「歌舞伎には物体から精というものが出てきて対話する手法がある。そういうものも使いたい」。

 公演は六〜二十五日。出演はほかに尾上松也(ユパ)、尾上右近(アスベル/オーマの精)、片岡亀蔵(クロトワ)ら。演出は新作歌舞伎「NARUTO−ナルト−」などのG2(ジーツー)。脚本は丹羽圭子と松竹の戸部和久。昼の部は午前十一時、夜の部は午後四時半開演。チケットホン松竹=(電)0570・000・489。

◆宮崎駿の全てをぶつけた作品 鈴木敏夫・プロデューサー

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 「宮崎にとってナウシカという作品は、実は一番大事なんですよ。彼の持っている全てをぶつけた作品です。その後いろんな作品を作ったが、僕はそばにいて、いつもわかっていた。彼の中心にあるのは全てこのナウシカでした」

 スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは、歌舞伎版ナウシカの製作発表会見でこう語った。数々の宮崎作品も「ナウシカの一部を切り取って作品にしたものが多かった」という。

 ナウシカにはハリウッド実写映画化などの話も持ち込まれたが、「全て断ってきた」と明かした。しかし、歌舞伎化については「(宮崎監督が)なぜかわからないが、今回に限っては『やろうよ』と言ってくれた」。タイトルを変えないこと、記者会見や取材には協力しないことが条件だったという。

◆漫画版・映画とは「別物」 「生命とは」問いかける

 アニメ映画のナウシカは日テレ系「金曜ロードショー」で計十八回放送され、軒並み高視聴率を記録する。歌舞伎化される漫画版は、映画とは別物といっていいほどの違いがある。

 漫画版は一九八二年にアニメ情報誌「アニメージュ」で連載が始まった。「天空の城ラピュタ」や「となりのトトロ」などの製作のため、度々中断しながら九四年に完結した。映画は連載中だった八四年の公開。漫画全七巻のうち二巻途中までを脚色した。

 核戦争を思わせる「火の七日間」で産業文明が滅びた後、巨大な「蟲(むし)」が生き、大地のほとんどが有毒物質を出す菌類の森「腐海」に覆われた世界の設定は共通している。しかし、漫画版では土鬼(ドルク)諸侯国連合や蟲使いなどの勢力が登場し、物語は複雑に展開。腐海の謎を巡りさらなるどんでん返しがあり、最終巻では「生命とは何か」という難解な問答も繰り広げられる。

 漫画版などを論じた「ナウシカ解読 増補版」を今月刊行予定で、宮崎監督にインタビューしたこともある明治学院大の稲葉振一郎教授(社会哲学)は「映画はパイロット版のようなもので、漫画版はあの時点での宮崎駿という人の思想的遍歴や自伝のようなもの」と解説する。

 連載していた八〇〜九〇年代の世界はソ連が崩壊し、冷戦が終わるなど激動の時代だった。宮崎監督は連載終了直後のインタビューで、ナウシカを描いて「マルクス主義ははっきり捨てた」と語り、連載中に最も衝撃を受けた出来事として民族間の凄惨(せいさん)な戦いが続いた旧ユーゴスラビアの紛争を挙げている。

 稲葉教授は「冷戦が終わり、むしろ新たな混沌(こんとん)の時代が来るという予感があり、従来の世界認識がずれてきた。その時代に宮崎監督が付き合い、考えたことが物語という形に織り込んで語られている」と指摘。「スケールからいっても他に類がない作品。あの時代であれだけ充実した作品は文芸作品を含めても少ない」と絶賛する。

 歌舞伎化について「合理的な選択」と評する。「映像作家の宮崎監督は他人に映像を作られるのはしゃくに障るはず。もう一度ナウシカをやるなら、宮崎監督が手を出せず、かつ非現実的な世界や物語全体を表現できる歌舞伎の通し上演が最適で、一番面白いのでは」

 歌舞伎版では、昼の部は原作の三巻ごろまででいったん物語を決着させ、夜の部で最後まで描く。映画版のクライマックスシーンは昼の部の前半ごろという。

徳間書店刊の漫画版「風の谷のナウシカ」全7巻(c)StudioGhibli

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