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【放送芸能】

笑いに熱チュー50年 年男・桂文珍 今、円熟の時

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 上方落語の重鎮、桂文珍(71)が昨秋、芸歴50周年を迎えた。古典、新作の垣根を越えた高座は老若男女に爆笑や感動をもたらし続ける。今年は年男。「70代が落語家の刈り入れ時」と円熟の極みに向き合う。ね年の2020年、大看板にチュー目でっせ! (ライター・神野栄子)

 満面の笑みを浮かべて高座に登場するや即座に観客の心をつかむ。軽妙な語り口でスピード感あふれるギャグを連発し、大爆笑の渦。噺(はなし)の本編では三味線を織り交ぜ、上方落語ならではの妙にもこだわる。

 練り直した古典、庶民の日常を巧みに切り取った新作で魅了してきた。「心がザワッとした瞬間、心のバランスが崩れた時がモノを創り出すチャンス。『なんかいけるんじゃないの』と思えた時が楽しい」と創作の極意を明かす。古典は二百作以上、新作は五十作以上手掛けてきた。

70年代前半、テレビで人気者になり始めていた頃

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 ギャグは「みんな体験ですな」。例えば、四十代で発表した創作噺「心中恋電脳」。近松門左衛門の心中ものにハイテクを融合させた会心作だ。夕食時、主人公が家でビールを飲もうとしたら、妻がコップの代わりに出したのは、プリンが入っていたプラスチックの容器…。「ああいうのは考えても出てこない」。細やかに切り取りデフォルメする。

 文珍の芸の味わい深さは、大好きだという能楽や文楽、歌舞伎などの伝統芸能の素養からもにじみ出る。「日常的に体の中に入れておくことです」。粋な小唄も習い、三味線も爪弾く。文楽の浄瑠璃方、豊竹咲太夫(現人間国宝)から語りの手ほどきを受け、義太夫を絡めた自信作「新版・豊竹屋」も完成させた。「古いものと新しいものを混ぜるギャップやパロディーが面白いんです」

1980年代前半の高座から

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 二十代からラジオやテレビで人気者になった。四十代では大学の非常勤講師、テレビの報道番組でメインキャスターも務めた。「勉強して授業に臨んだ大学の講義で力がついた。報道番組で時事ネタに強くなった気がする」。全てが落語に生きている。五十代からは落語一筋。「覚悟が要ったが、一つの道を究め集中する楽しさを味わっている」と心境を語る。

 弟子は三人。「よその(噺家の)弟子だと冷静に俯瞰(ふかん)でき、ちゃんと教えられる」と笑う。若い頃、他門の大名人、桂米朝に稽古を付けてもらったことと重ねる。「米朝師匠は忠実にロジカルに説明してくださった。(大作の)『地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)』を一日がかりで教わった。『これは君向きやな』っておっしゃってくれたのがうれしかったね」

 師事した五代目桂文枝の教えは「ピャーと演(や)ってシュッと演ったら、ドッと笑うからやれと。六十過ぎてそれが分かるようになった」と懐かしむ。練り込んだ理論派の芸、天才肌の感覚派の芸も自分のものにしていった。「種まきをしても、種で腐ったものも花が咲かなかったものもある。出来の悪い噺ほどかわいい」

1988年4月、関西大学の教壇に立つ

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 二月から三月にかけ、東京・国立大劇場で落語家としては異例といえる計二十日間の独演会を開く。披露する四十作はどれも自信作。「盆栽の名人が惜しげもなく枝葉を切りはるのを見た。僕らも言葉の刈り込みをして引き算を楽しみながら描ければ」

<かつら・ぶんちん> 1948年兵庫県生まれ。69年三代目桂小文枝(後の五代目文枝)に入門。テレビやラジオで人気を集める。88〜2003年、関西大文学部で非常勤講師。91〜2005年、報道番組「ウェークアップ!」のキャスター。08年度第59回芸術選奨文部科学大臣賞、10年紫綬褒章。

 2月28日〜3月8日、同15〜24日の計20日間、東京・国立大劇場で芸歴50周年記念の独演会を開く。

◆たたずまいが格好いい 40年来の友人・甲斐よしひろ

文珍について語る甲斐よしひろ。自身もデビュー45周年を飾るベストアルバム「KAI BAND HEROES」が好調。16日には東京・NHKホールで記念ツアーのファイナル公演を行う

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 文珍は交友関係も広い。中でも文珍が「生き方が信じられるまっすぐな人」と評するロックミュージシャン甲斐よしひろ(66)とは四十年以上の付き合い。異分野の友が語る文珍の芸と人柄は。

 −出会いは?

 二十代の頃、京都のライブ終了直後、楽屋でインタビューを受けた。当時、関西のラジオパーソナリティーは落語家が多く、文珍さんもその一人。ライブの余韻でホットな話ができ、親交が深まった。

 −落語はお好き?

 聴きません。落語は「見に行く」んです。所作を含めて見に行く。何でもそうだがライブが一番、落語も人間を見に行きます。文珍さんの高座で印象的だったのは新喜劇の後、トリで披露した一席。箸の長さが合わない嫁の噺だったけど、年寄りから子どもまで大ウケ、ぶっ飛びましたよ。

 −観客を引きつける要素は何でしょう?

 出てきた瞬間のたたずまい。それだけで格好いい。落語家であろうとアーティストであろうと一緒。文珍さんは素晴らしい。

 −文珍落語の魅力は?

 ディテール(細部)にこだわり作り込んでいるから、無理な所作をやらなくても分かる。まくらで巻き込み、こちらが笑える「間」を作ってくれる。四十代半ばで見た時から、一生尊敬しようと。

 −ロックと落語の共通点は?

 同じ表現者。最初にどれだけ客を食い付かせるか、ドーンと巻き込んで見事な着地を決めるには、出だしから力まないこと。

 −文珍師匠の人柄は?

 メチャクチャ優しい。でも、性格は濃〜い、クセの強さね。僕もクセが強いんで、折り合ったのかな。

◆人間と世相を風刺

<落語プロデューサー京須偕充(ともみつ)さん(77)の話> 好奇心旺盛、器用な人。笑わせようと細工しているのに、仕掛けを感じさせないところが巧みで憎らしいほどうまい。文珍さんは人間と世相を風刺的に描こうとした。素材は新作でも古典でも何でもいい。風刺したいがために古典落語を練り直した。

※京須選「文珍落語10傑」別表を参照

円熟の語り口で聴衆を引き込む=昨年、金沢市で

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◆文珍落語10傑(京須プロデューサー選)

(1)老婆の休日(新)

(2)算段の平兵衛

(3)星野屋

(4)心中恋電脳(新)

(5)地獄八景亡者戯

(6)軒付け

(7)胴乱の幸助

(8)新版・七度狐(新)

(9)親子茶屋

(10)不動坊

※(新)は新作、あとは古典

 

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