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【放送芸能】

「AI美空ひばり」に賛否 故人の「再現」議論の契機に

昨年の「NHK紅白歌合戦」に登場した「AI美空ひばり」

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 昨年大みそかのNHK紅白歌合戦に登場した「AI美空ひばり」に「冒涜(ぼうとく)」「感動した」など、賛否両論が巻き起こっている。一九八九年に死去した美空ひばりの歌声を人工知能(AI)技術で再現。本人そっくりのCGが新曲を歌い、せりふも語った。故人がよみがえったかのような新たな“潮流”に、専門家は「こうした流れは止まらない」と指摘。議論の重要性を訴える。 (原田晋也)

 「AIひばり」は、NHKがヤマハの技術協力で過去の音源や映像を基に再現。秋元康が作詞した新曲「あれから」を歌わせた。曲の合間には「お久しぶりです」「私の分まで、まだまだ頑張って」などの語りも入っている。

 「ひとことで申し上げると、冒涜です」。シンガー・ソングライター山下達郎は自身がパーソナリティーを務める一月十九日放送のTOKYO FMの番組で、AIひばりをこう断じた。リスナーから寄せられた「技術としてはありかもしれませんが、歌番組の出演、CDの発売は絶対に否と考えます」との意見に「ごもっとも」と答えた上での発言だった。

「あれから」のCDジャケット

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 対して、ひばりファンからはおおむね好評だ。福島市が拠点のファンクラブ「むらさきの会」の大野美江子代表は「最初は『えっ』と思ったが、実際聴いてみれば生と多少の違いはあってもひばりさんの声。ファンは感動し、喜んだと思う」と話す。自身が主宰するカラオケ教室でも「似ている」と話題になり、新曲のCDを買ってきて「これを練習したい」と言ってきた生徒もいたという。

 CD発売元の日本コロムビアによると、新曲のCDは演歌・歌謡曲のジャンルの中では大きな売り上げを記録。また、ダウンロードとサブスクリプション(定額聞き放題)を合わせたデジタル分野でも動きがあった。新曲のほか「川の流れのように」「愛燦燦(さんさん)」などの配信数も伸び、担当者は「若年層にも美空ひばりに興味を持ってもらえたのではないか」と分析している。

 デジタル時代の権利問題に詳しい福井健策弁護士は、今回の企画を「『冒涜だ』という意見が出てきたことも含め、NHKのお手柄。いつの間にか商品化されているよりもよっぽどましだった」と評価する。

 「AIひばりを見ても分かるように需要は大きく、故人が再現される動きは多分止まらない。誰の許可があれば故人を再現できるのか、故人の遺志はどこまで尊重されるのかなど、考えることは多い。だから危ない、と言いたいのではなく、想像力を持って語り合うことが大事ではないか」

◆技術をどう使うか 問われる社会のモラル 石黒浩・大阪大教授に聞く

石黒教授(奥)と、石黒教授そっくりのアンドロイド

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 AI技術などによる故人の再現をどう考えればいいのか。自分自身やタレント、過去の偉人など人間そっくりのアンドロイドをつくることで、「人間とは何か」を研究している石黒浩大阪大教授に聞いた。

 −「冒涜だ」という意見も出ているが、AI美空ひばりをどう考えるか。

 有名な人が人々に望まれてCGやアンドロイドとしてよみがえり、人に影響を与えていくのは、技術の一つの可能性だ。ただ、本人がアーティストとして納得しているかわからない作品を世に出すとなると、難しい。芸術はその人に帰属する唯一無二のもの。ピカソの絵にちょっと描き加えて「もっと良くなりました」ではおかしい。

 「これはAIが作った芸術です」と言って出すのはいい。今回は美空ひばり本人とは違うと分かっているわけなので、それで喜んでいる人がいるなら許される技術の利用法だと思う。

 −機械っぽい、気持ち悪いという意見もあった。

 それは「不気味の谷(ロボットなどが人間にかなり近づいたところで急に不気味さや嫌悪感が出てくる現象)」だ。そこは全く時間とお金の問題で、急速に改善されていくだろう。

 −影響力のある故人に新しい言葉を言わせることは危険ではないか。

 どんな技術でも常に悪用されるわけで、技術をどう使うかは社会のモラルが決めること。技術は、いい方向に使う人にどんどん使わせないと伸びない。過去に後戻りすることはできない。

 

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