東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 放送芸能 > 伝統芸能一覧 > 記事

ここから本文

【伝統芸能】

<評>「名月八幡祭」役者揃う 歌舞伎座「二月大歌舞伎」

 初代尾上辰之助の三十三回忌追善。子の尾上松緑が昼夜にゆかりの役を演じる。

 ことに大役は昼の部「義経千本桜 すし屋」の、いがみの権太(ごんた)。さすがに手一杯の印象だが、ぐいとにらんだ眼光の強さといい、線の太さは大きな魅力。再演に期待したい。尾上菊之助の弥助実は維盛(これもり)は、品格があるものの怜悧(れいり)さが勝ってふっくらとした柔らか味が少ない。他の役々を含めて義太夫味が非常に薄いが、これはこの一幕に限らず近年の歌舞伎全体の問題。昼の部は他に尾上菊五郎の丑松(うしまつ)、中村時蔵の女房お米で長谷川伸作「暗闇の丑松」、中村芝翫(しかん)、片岡孝太郎で「団子売(だんごうり)」。

 一方、夜の部の池田大伍作「名月八幡祭」では松緑が縮屋(ちぢみや)新助を好演している。田舎の商人らしい手堅さ、そつのなさ。それがうっかり惚(ほ)れてしまった高嶺(たかね)の花に手ひどく裏切られ、江戸という浮薄な都会を呪いつつ破滅していく。坂東玉三郎の芸者美代吉が虚栄と放縦を体現したような女を描き出して傑作。片岡仁左衛門の船頭三次も軽薄で自堕落な男を活写して、二人が火鉢を挟んで寄り添う姿は新助の孤独と絶望を際立たせる。中村梅玉の藤岡慶十郎、中村歌六・中村梅花の魚惣(うおそう)夫婦、中村歌女之丞の母およしと周囲も揃(そろ)っている。

 「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき) 熊谷陣屋」の熊谷は中村吉右衛門随一の当たり役。豪快、悲壮に加えて、終盤にしみじみと優しい哀感が漂うのが独特。歌六の弥陀六(みだろく)、中村魁春の相模が運命の皮肉と残酷さを浮き彫りにする。菊之助の義経は口跡爽やかで優美。夜の部は他に「當年祝春駒(あたるとしいわうはるこま)」。二十六日まで。

 (矢内賢二=歌舞伎研究家)

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報