東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 放送芸能 > 伝統芸能一覧 > 記事

ここから本文

【伝統芸能】

<はじめての和の道>記者体験ルポ 隈取り 色や様式 先人の知恵 超人気分!

立花志十郎さん(左)に隈取りをしてもらう原田記者=いずれも東京都中央区で

写真

 歌舞伎といえば、まず「隈取(くまど)り」が思い浮かぶ。顔に赤や青の筋を引いた独特の化粧は強烈な印象を与える。歌舞伎の象徴ともいえる隈取りが気軽に体験できると聞き、記者(32)は都内の倉庫会社が行っている文化事業「歌舞伎太郎」の「くまどり見学会」(4月19日)に参加した。隈取りを施すと気持ちに変化が起きて…。 (原田晋也)

隈取りをしてもらい歌舞伎独特の「六方」の動きを教わる

写真

 「歌舞伎では登場人物の性格を見た目、せりふすべてにおいてはっきり描き出すことが大事。隈取りをしている人は、普通よりも飛び抜けて正義感が強いとか、あるいは常人を超えて悪いとか。それが顔に現れているという考え方なんです」

 東京・日本橋の歌舞伎太郎事務所。講師の立花志十郎さん(42)が、さまざまな隈取りが登場する時代物(江戸期より前の時代や人物の世界に題材を得た作品)の名作「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」を例に解説してくれた。隈取りは顔の血管や筋肉、陰影などを強調しており、赤は正義、強さ、熱血、善などを、青は冷酷さ、悪などを表す。茶色など、赤でも青でもない場合は人以外の妖怪などを表す。

 いよいよ体験だ。普通、歌舞伎役者は隈取りは自分でやるというが、今回は立花さんにやってもらった。まず、顔面にびん付け油をたっぷり塗る。料理油のようなヌルヌルしたものでなく、ベタベタした触感。素手でぐりぐりと塗り込んでいく。

赤い筋を書く前におしろいを塗り、水分を拭き取る

写真

 次に、水に溶かしたおしろいを塗り、パフで水分を拭き取る。こうすることでおしろいが油とくっついて顔に定着する。ここまでは京都の舞妓(まいこ)の化粧と全く同じだという。

 次は筆で赤い筋を書く。筋はむやみやたらに書くわけではなく頬骨に沿っている。書き順は特に決まっておらず、後で指でぼかすので丁寧に書かないほうがいいとされている。ぼかすと舞台上で迫力が出るので、役者の間では「近くで見た時ちょっと汚いくらいにしろ」と言われるという。

教えてもらった「六方」に挑戦

写真

 約三十分ほどで熱血漢を表す見事な「筋隈(すじくま)」が完成した。この顔のまま、東西南北天地の六方向に手足を動かす歌舞伎独特の歩き方「六方(ろっぽう)」に挑戦。もはや気持ちは歌舞伎役者だ。気分がよくなり「普通よりも飛び抜けて」勇気が湧き、そのままの姿で立花さんに話を聞いた。

隈取りをしたまま立花さんに取材する原田記者

写真

 立花さんは、歌舞伎の洗練された様式のすごさを強調する。「浅知恵で手を加えようと思っても『なるほど、だからこの衣装でこの化粧なんだな』と思うことばかり。古典歌舞伎は何百年もかけ多くの人が知恵を絞って作り上げているので、全然いじるところがないんですよ」

 そうか、今の自分の顔には何百年にも及ぶ人の知恵が塗り重ねられているのだ。そう思うと何だか「常人を超えた」感覚に見舞われて気が大きくなり、化粧を落とさずそのまま地下鉄に乗って会社に戻った。車内で外国人観光客らしき家族がこちらに気付き目をむいていたが、舞台にいるような気分になった。

       ◇

 四月十九日に東京メトロ銀座線や霞が関周辺でスーツに隈取り顔の不審な男を見かけた方、それは私です。

隈取りのまま会社に戻り、原稿を書く原田記者。左にあるのは、隈取りに布を押し当てて写し取った「押し隈(おしぐま)」。歌舞伎役者がひいきの客に贈るもので、取材の記念に作ってもらった=東京都千代田区の東京新聞編集局で

写真

◆今日の先生 立花志十郎さん

講師の立花志十郎さん=東京都中央区で

写真

 1976年、神戸市生まれ。日本舞踊宗家立花流師範。大学でたまたま勧誘されたサークルで歌舞伎にほれ込み、国立劇場歌舞伎俳優養成所で学ぶ。東京・歌舞伎座など大劇場での経験を経て、現在は全国の学校で講演や歌舞伎指導をしている。歌舞伎は難しく思われがちだが、「江戸時代の普通の人が見て楽しんでいたのだから本来は難しくない。どうしたらより面白く見てもらえるかをお伝えしたい」と話す。

 歌舞伎太郎は、くまどり見学会のほか、歌舞伎入門講座や観劇会も開いている。問い合わせは歌舞伎太郎事務局=(電)03・6262・5151=へ。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報