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【伝統芸能】

武士の気骨 娘への情愛 9月文楽公演 吉田玉男が「景清」に挑む

 源平合戦で活躍した平家の侍大将、平景清を題材にした「嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)」が東京・国立小劇場の九月文楽公演で上演される。これは平家滅亡後に流人となってからの景清に焦点を当てた作品。中でも「日向嶋(ひゅうがじま)の段」は、太夫の語り出しや舞台の作りに能の「景清」の要素を取り入れた演出も注目される。景清を演じる吉田玉男(65)が、舞台への意気込みを語った。 (牧野容子)

 戦場での勇猛ぶりで名をとどろかせ、悪七兵衛(あくしちびょうえ)の異名をもつ景清は、平家滅亡後に源頼朝の暗殺を試みるが、失敗。捕らえられると、源氏の世は見たくないと、自らの両目を抉(えぐ)り出し、日向国(宮崎県)に流される。「凄(すさ)まじいほどの武士の気骨。そんな景清の性根(性格、本心)が、日向嶋の段の冒頭部分でもよく表れています」と玉男は話す。

 日向嶋の段は最初に能の謡の技法を模した太夫の語りだけで始まり、幕が落ちると、庵(いおり)のそばの海岸で、かつての主人、平重盛の位牌(いはい)を取り出して拝む景清の姿が描かれる。

 「痩せ衰え、目も見えずおぼつかない足取りですが、流人となっても源氏には屈しないという強い意志のようなものが滲(にじ)み出ている。演じる側も力の入る場面です」

 だが、そんな景清の心の強さが、娘、糸滝の出現によって変化を見せる。二歳の時に景清と生き別れた糸滝は父が官位を得られるようにと遊女屋に身を売り、その金を持って日向嶋まで訪ねてくる。最初は拒絶し、娘を追い返す景清だったが、船が出た後に糸滝の書き置きを読む里人によって身売りのことを知ると愕然(がくぜん)となり、「その船返せ、戻せ」と海に向かって叫びだす。

 「娘の思いを知って初めて父親の情愛が溢(あふ)れ出し、武士としての頑(かたく)ななまでの心を揺り動かしていくのです。体の動きも前半と比べてかなり激しくなります。そのような景清の心の変化を見ている方にもしっかり感じ取っていただけるようにしたい」と意欲を見せる。

 景清を演じるのは今回で三回目だが、二〇一五年に二代目吉田玉男を襲名してからは初めてとなる。人間国宝であり、自身の入門以来三十八年間、すぐ近くで指導を仰いだ初代吉田玉男(一九一九〜二〇〇六年)がよく演じていた役としても、景清には思い入れがあるという。

 「師匠が主遣い(人形の頭の部分と右手を持つ役)をなさっていた時の足遣い(足を持つ役)や左遣い(左手を持つ役)を自分が何度も経験しているので、いつも師匠の動きを思い出します」と振り返り、「以前の名前(玉女)で演じていた時とは違い、玉男の名前で演じさせていただくのは身が引き締まる思いです」と、気持ちを新たにする。

 近年、他にも師匠が得意としていた役を担当することが増えている。

 「自分が主遣いをしながら、同時にその役の足や左を遣っていた自分の姿を思い出すことも多いのです。自分が足の時はこうだったから、主遣いとしてこんなふうに動いてみようとか、足遣いや左遣いのことを思いながら演技ができるんですね。それは、足十年、左十数年という修業を積み重ねていく文楽ならではのことなのだろうと思います」

      ◇

 公演は九月七〜二十三日。国立劇場チケットセンター=(電)0570・07・9900。

 

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