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江口寿史イラストレーション展 彼女 世界の誰にも描けない君の絵を描いている

一瞳入魂 現代の「美人画」描く 江口寿史さん「ドキッ」を生み出すネチっこさ

吉祥寺で40年近く仕事を続ける江口寿史さんのスタジオ=いずれも武蔵野市で

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 こちらの目を射抜くような少女のまなざしに、つい見入ってしまう。21歳で漫画家デビューし、イラストレーターとしても長く活躍する江口寿史さん(63)は、当代随一の「美人画」の描き手だ。印象的な女性たちはどうやって生まれるのか。東京・吉祥寺の仕事場を訪ねた。

 学生からお年寄りまで多くの人が行き交う吉祥寺(武蔵野市)の中心街から少し離れたマンションに、江口さんのスタジオがある。1981年以来、この地で40年近く仕事を続ける。

 「ファッション雑誌も参考にしますが、街を歩いて観察すると、布地の揺れ方とか、マフラーはこう巻くんだとか、ナマの着こなしを知ることができる。モデルさんにはない、ぐっとくる立ち方というのもあります」。この街で徹底して「見る」ことが、作品に昇華している。

 実際の作業を見せてもらった。アシスタントはおらず、すべて1人で描く。

下絵では定番の「つけペン」ではなく筆ペンを愛用する

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 まず、紙に下絵を描く。漫画家といえばGペンなど、ペン先にインクをつけて描く「つけペン」が定番だが、江口さんは強弱を表現するために筆ペンを愛用する。「これがあるからニット(編み物)なんかも描ける。何でも質感を出すのは面白くて、やる気が出ますね」

 下絵ができたらスキャナーでパソコンに取り込み、彩色など仕上げに入る。筆ペンで引いた線も画面上で拡大し、微修正を繰り返す。特に重視しているのが、目だ。「見る人を本当にドキッとさせたい。絵がこちらを見つめてくるまで、ネチネチと、何度でも修正します」。そのしつこさが、目に見えないものを定着させようとする執念が、仕上がりに表れるという。

 ギャグ漫画家としてデビューした。斬新な笑いこそ重要で、絵に対するこだわりはあまりなかった。

 意識を変えたのは、70年代末に注目された同世代の漫画家、大友克洋さんだ。「大友さんは『見たまんま』を描いたんです。こういう時代が来たのかと驚いた」。従来の漫画では、例えば鼻は簡単な線で記号のように表現した。「鼻の穴を描きつつ、かわいい、かっこいい絵はどうやったら描けるのか」。「絵」を追究し始め、仕事の重心も83年頃からイラストに移っていった。

下絵をスキャナーでパソコンに取り込み、彩色など仕上げの作業に入る

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 スタジオの書棚は大部分が漫画で埋まる。故手塚治虫さん、ちばてつやさんら「大先輩」から、最近の若手のヒット作まで。額に入れて壁に飾ってある原画は、藤子不二雄(A)さんの自伝的漫画「まんが道」の1ページだ。

 「僕が主人公の『まんが道』を描きたい」と話す。「ギャグ漫画がしのぎを削り、雑誌の売り上げさえ左右するという時代があった。あの熱気を描いておきたいんです」

 自らの原点への思いの一方、イラストでも温めているアイデアがある。「いま描いている広告のイラストも世相を映してはいますが、最初から自立した芸術作品としても、現代版の浮世絵のような時代風俗画を描きたいですね」

 イラストと漫画という似て非なる二つの世界を行き来する江口さん。新たな代表作が生まれそうな予感だ。

「吉祥寺サンロード2019夏キャンペーン」広告用イラスト (C)2019 Eguchi Hisashi

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「吉祥寺サンロード2019夏キャンペーン」広告フラッグ用イラスト (C)2019 Eguchi Hisashi

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「リアルワインガイド」66号表紙 (c)2019 Eguchi Hisashi

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◆茨城・筑西で個展開催中!

 「江口寿史イラストレーション展 彼女」(東京新聞など主催)が9月16日まで、茨城県筑西市のしもだて美術館で開催中。原画を含む300余点を展示。JR下館駅北口から徒歩8分。月曜休館(月曜が祝休日の場合は翌火曜休館)。入館料一般800円、高校生以下無料。問い合わせは、しもだて美術館=電0296(23)1601=へ。

<えぐち・ひさし> 1956生まれ。77年に「週刊少年ジャンプ」でデビュー。代表作に「すすめ!!パイレーツ」「ストップ!!ひばりくん!」など。80年代からはイラストレーターとしてデニーズ、資生堂などの広告や雑誌、音楽CDジャケットなどを多数手掛ける。画集に「KING OF POP」「step」がある。

 文・谷岡聖史/写真・淡路久喜

 江口寿史さんの制作風景とインタビューの動画を、YouTube「東京新聞チャンネル」でご覧いただけます。

 

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