東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > イベント情報 > 美術一覧 > モネ それからの100年 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

モネ それからの100年

<池上先生の絵ほどき>モネへのオマージュの巻 現代的な光に置き換え

クロード・モネ《睡蓮》1906年  油彩・キャンバス 81.0×92.0センチ 吉野石膏株式会社蔵(山形美術館に寄託)

写真

 筆者が東京芸大で美術史を学び始めた頃、絵画の大学院に福田美蘭(みらん)がいた。なにかの展示で見た彼女の作品は、たしかミケランジェロによる天井画の部分模写を使ったもので、その卓越した技巧に驚いた覚えがある。そしてその作者がトリックアートなどで有名なデザイナー福田繁雄の娘だと知って、芸術の才まで遺伝するのかと、諦念や嫉妬にも似た複雑な感情を抱いた。

 先日、今では現代日本を代表する画家のひとりとなった福田美蘭による、<睡蓮(すいれん)の池>と題された最新作を観(み)た。高層ビルの一番上の階にありそうなレストランに並ぶテーブル。卓上にはキャンドルが置かれ、オレンジ色の柔らかな光がテーブルクロスを照らしている。全面の窓ガラスの向こうには、都会のビル群が、青白い光を放ちながらはるか先まで続いている。

 面白いのはこれが<睡蓮の池>と題された点だ。もちろん印象派の巨匠クロード・モネの一連の睡蓮画をうけてのものだ。両作品になんら共通するモチーフはないのに、その全体的な印象は確かによく似ている。

 やや上方から見下ろす俯瞰(ふかん)視点。青や緑を背景に、遠方まで広がる水平面。その上に、ほぼ同一形状・同一サイズのモチーフが果てしなく並んだ様子。それらはぼんやりとした色彩と光を放ち、干渉し合い、とけこんでいく−。

 両者の違いは、つまりは昼と夜、自然と人工にある。この点を、作者たち自身の言葉で説明してもらおう。

 「私は戸外制作を始め没頭するようになった。(中略)マネが戸外制作を行うようになったのは、後のことで、私の方が先だった」−モネの言葉、『ル・タン』一九〇〇年十一月二十七日号より(吉川節子訳)。

 「モネは、光と色彩の実験を大胆に推し進める中で、日没後の人工の光にはほとんど無関心であった」−福田美蘭、『モネ それからの100年』カタログより。

 ブーダンにならってモネが戸外制作を始めたことはよく知られている。必然的に、対象は太陽光に照らされた風景に限定される。福田によるモネへのオマージュでは、現代的な光に照らされた世界をモネの視点で見ているのだ。(池上英洋=美術史家、東京造形大教授)

 ※「モネ それからの100年」展は、9月24日まで横浜・みなとみらいの横浜美術館で開催中。

福田美蘭《睡蓮の池》2018年 アクリル/パネルに貼った綿布 227.2×181.8センチ 作家蔵

写真
 

この記事を印刷する