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【にっぽんルポ】

0円ショップ価値無限 垣根ゼロ 心つながる 東京・国立の路上

生活用品などを無料で提供する「くにたち0円ショップ」。行き交う人が自然に立ち止まり、交流が生まれている=いずれも東京都国立市で

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 「これ、本当にタダでもらえるんですか?」

 「はい、ご自由にどうぞ」

 JR国立駅近くの路上で、本やCD、衣服、生活用品などがシートに並ぶ。一見、普通のフリーマーケットのようだが、品物は全てゼロ円。東京都国立市で二〇一二年から始まった「くにたち0円ショップ」は、お金を介さない路上の交流スペースとなっている。

 毎月第二日曜の昼すぎから日暮れまで(悪天候の場合、翌日曜に開催)。誰が出店しても、何時間でもよく、ルールは「残った品物は持ち帰る」だけ。ビートルズのCDや司馬遼太郎の小説、かわいい子ども服。ブックオフやメルカリでも売れそうな品が多く、夕方には品物がほとんどなくなることも多い。

 きっかけは、現在はオーストラリアで生活する星埜(ほしの)恵さん(31)の思いつき。路上ライブをする傍ら、ちぎった段ボールに「0円ショップ」と書き、自宅の不用品を無料で並べた。たまたま通りかかった人に本をあげると、持っていた本をくれて、自然と物々交換になった。「路上は誰もがいられる公共の場所。いろんな種類の人が集まって、いろんな考えを共有できる」。仲間に呼び掛けると、毎月続くようになった。

 参加者は国立市や近隣在住が多く、十代から五十代までと幅広い。品物を持ち込まず、単に座って談笑したりギターを弾き続ける人も。緩やかなつながりを大切にしている。

 メンバーの一人でフリーライターの鶴見済(わたる)さん(55)は「経済至上主義が省略してきた、人とのつながりや協力を大切にする世の中が広がってほしい」と話す。

  (竹谷直子)

◆普段会えない人と

 無料で品物を提供する「くにたち0円ショップ」。もらう側はともかく、提供する側の喜びは何なのか。

 初期から参加している東京都立川市の自営業原田由希子さん(46)は「普段出会えない人と話をし、町の人が温かく感じられるようになった」と魅力を語る。

 作業所職員の坂本貴士さん(45)=大田区=は以前は飲食店などで働いたが、上司のパワハラに疲れて退職。職を転々として自殺まで考えていた時、0円ショップを知った。

 「勝ち組、負け組と分けられる風潮があるが、ここに来て第三、第四、第五の人生の選択肢があることに気付き、楽になった」。最近は国立市以外に大田区蒲田や杉並区高円寺でも、不定期に0円ショップを開いている。

 品物を譲り受ける側も、タダ以上の喜びがある。常連の大城久美さん(62)=国立市=は「お金がかからないからお互いに気楽」と話す。「年齢を重ねると、社会からの孤立を感じる。この場を知っていることが財産」と喜ぶ。

 偶然通り掛かり、ヘアゴムを譲り受けた主婦の徳永友美さん(32)=国分寺市=は「垣根がなくて力が抜けていて、立ち寄りやすかった。いろんなものが他の人の役に立つといいですね」と話した。

 オーストラリアから来日した大学研究員のアレキサンダー・ブラウンさん(38)=国立市=も常連の一人。「消費社会に代わる地域に根ざした活動で面白い。留学生は地域になじめない傾向があるけど、ここではじっくり話ができ、交流を深められる」と話した。

有料で売れそうな品物を無料で提供することで気楽な交流が生まれる

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◆自分の人生見えた

 ツイッターで0円ショップを知った二十歳の男性=小平市=は「ここでいろんな人に出会えて、自分に合った生活の形が徐々に見えてきた」と語る。

 男性は幼いころから人と接することに拒否感があり、一人で過ごすことが多かった。学校生活でもクラスでもめ事が起きるたびに、人間関係に対して「面倒だ」という思いが募った。

 高校卒業後は鉄パイプの製造工場に勤めたが、人手不足や不十分な設備の中、ノルマに追われた。職場では罵声が飛び交い、張り詰めた空気が広がっていた。「上司が大勢の前で部下の人格否定をしたり、みんなカリカリしていた」。働きがいを感じずに退職。今はアルバイトをしながら生活をする。

 0円ショップに初めて来たのは今年の二月。本が好きで、読み終わったものを持って行くと、そこから自然と会話がつながった。日本一周の旅をした人や、植物に詳しい人。いろんな人がいることを知った。

 「誰もが出世して家庭を築いて、とできるわけではない。レールに乗れない人は未熟者と見なされる。それでも、みんな悩み揺れながら生きている。生きているだけで偉い。そこを忘れてはいけない」と力を込める。

 今では、「公園などに集まり、特に何もしない」というユニークな交流イベントも開いている。「ここに来るまでは本当にしんどかった。でも自分の人生はこれからなんだと先が見えた気がする」と語り、仲間の会話の輪の中に戻っていった。

0円ショップが居場所となり、生きる希望を見つけた男性(手前)

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◆経済成長求めたが

 メンバーの一人、鶴見済(わたる)さんが0円ショップに加わったのは二回目の開催から。「お裾分けやシェアの発想を広めることができないかと思った」と話す。

 高校時代から重い精神疾患があり、社会での生きづらさを感じ続けてきた。東京大学に進学し、治療をしながら卒業。出版社などで勤めたが、上司のパワハラや過酷な労働に疲弊する日々が続いた。

 鶴見さんは一九九三年、さまざまな自殺の方法を紹介した「完全自殺マニュアル」を出版し、議論を呼んだ。悩みを抱えている人が「いざとなったら死ねるのなら、とりあえず生きていこう」と前向きになる願いを込めて執筆した。「自分のように、社会に適応できない人が楽に生きてほしい思いがあった。その点では、0円ショップも同じ」と話す。

 地域に居場所がない六十代の男性が歌を歌いに来たり、出品する人同士が交流したり。「売り手」と「客」という垣根や「競争」もない0円ショップでは、自発的な物のやりとりや世話をし合う関係が生まれる。「地域の福祉からこぼれている人はたくさんいる。学校に行けない、公民館にも入れない。人間関係からこぼれてしまう。そういう人たちにとってもいい居場所になっている」

 0円ショップは、会員制交流サイト(SNS)などを通じて、立川市や京都府、熊本県など各地に広がっている。

 「日本人は長い間、経済成長のために働いた。だけど、結局あまり幸せにならなかったのではないか」と鶴見さん。「0円ショップはGDP(国内総生産)には入らないけれど、幸せになれる。『個人がいい感じでいること』が一番目指すべきところではないか」 (文・竹谷直子/写真・梅津忠之)

くにたち0円ショップの常連参加者たちと談笑する鶴見済さん(右から2人目)。提供する人、譲り受ける常連、単に談笑に来る人など垣根がないつながりがある

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