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【知られざる世界ランカー】

階段王に俺はなる 階段垂直マラソン・渡辺良治

青梅市の天祖神社でトレーニングをする渡辺良治

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 超高層ビルの非常階段を駆け上がるレース「階段垂直マラソン」で、渡辺良治(35)は世界の頂を目指す。本格参戦して3年目の世界シリーズ「バーティカル・ワールド・サーキット」(VWC)で、今年は3大会に優勝し、悲願の年間王者も見えてきた。合言葉は「階段王に、俺はなる!」−。

 六月二日、舞台はニューヨークの1(ワン)ワールドトレードセンター(高さ546メートル)。渡辺は念願のVWC初優勝を遂げた。高さ382メートルのゴールまで、104階2226段を12分37秒で駆け上がった。苦しかったレースを振り返る。

 「70階あたりで身体は限界ぎりぎり。足腰はもちろん、手すりをつかむ手も力が入らない。最後は頭の中が真っ白になり、力を振り絞ってゴールに倒れ込んだ。指一本動かすことができず、係員に引きずられて移動。気分が悪くなってトイレに駆け込んだ」

 階段を駆け上がる過酷さは、誰でもやってみれば分かる。足は鉛をつけたように重くなり、心臓はバクバクと張り裂けそうになる。

 渡辺は「全力で走ったら普通の人なら30秒も持たない。僕でも1分でつぶれる。大事なのは一にも二にもペース配分」。タイムが10分以上かかる超過酷なレースは、「フルマラソンのペースで走る」と例える。

 駆け上がるだけでなく、踊り場をくるくると回る技術も必要。「足だけだと、すぐに限界が来る」といい、手すりを使って体を引き上げることも重要。単調に見えて実に奥が深い。

 フルマラソンの経験もある渡辺は、重力にあらがう競技の魅力を語る。「10分そこそこのレースで、42・195キロを走り切った時と同じ疲労感や達成感を味わえる。ゴール後に見下ろす景色は最高のご褒美」

ウエアの背中には「階段王」の文字が

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 大学卒業後、プロボクサーを目指し四年近くジムに通ったが、断念。「太り始めた体にストップを」と始めたのが山野を走るトレイルランニング。富士登山競走で入賞するようになり、「平地より上りを走るのが人並み外れて得意」という才能に気付いたという。

 高所山岳地帯で行うスカイランニングに、標高差一キロを駆け上がる種目がある。渡辺は挑戦一年目で日本代表となり、二〇一六年の世界選手権に三十二歳で出場。しかし、結果は「トップに5分差も付けられる惨敗(14位)」だった。

 世界への挑戦は終わるはずだったが、この年の十二月に大阪・あべのハルカスで開かれた階段垂直マラソンで人生が変わった。山岳レースでは足元にも及ばなかった国内無敵の宮原徹に勝ち、3位になった。

 「階段を駆け上がる能力なら、すでに世界と対等に戦える」。自身驚きの発見だったという。そして「息子に父親が世界一になるところを見せる」と誓った。

 世界には飛び抜けた二人の強豪がいる。一四年からVWCの年間王者に君臨するピーター・ロボジンスキー(ポーランド)と2位のマーク・ボーン(オーストラリア)。渡辺は二人に次いで2年連続3位だ。

8月の北京大会で優勝のゴールテープを切る(C)Sporting Republic

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 政情不安から十二月の香港大会が中止になり、VWCは来月の「ハルカススカイラン」が今季最終戦となった。1位にはボーナス点が加算されることになり、暫定2位の渡辺は「実質三人の中でこのレースを制した者が年間王者になる。大阪では絶対に勝つ」。

 福祉の現場で働きながら、年間、国内外の約15の大会に出場する。妻愛子さん(40)も「応援してくれる方たちの期待に応えて」と背中を押してくれる。そして四歳になった長男陽希(はるき)君の応援は何よりも力の源だ。

 「パパは階段王。ピーターとマークに勝ったの? スーパーダッシュをすれば勝てるよね」−。 (敬称略)

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<階段垂直マラソン> 1978年に始まったニューヨークのエンパイアステートビル・ランアップは有名。国内でも80〜90年代にサンシャイン60(豊島区東池袋)で開かれた。2000年代に入ると、アジア、中東でも超高層ビルが建設され、世界各地で大会数が飛躍的に増加。年間300近いレースが開かれている。2009年からVWCが始まったほか、世界タワーランニング協会(TWA)もシリーズ戦を開催している。

 ゴール地点が最も高いレース会場は、中国の上海タワー(高さ632メートル)。119階の展望台(高さ552メートル)まで3398段を上がる。 

<わたなべ・りょうじ> 30歳を過ぎてスカイランニングを始め、標高差1キロを駆け上がる種目で2016年世界選手権14位。17年から階段垂直マラソンに専念し、同年の第5回東京タワー階段競走を2分6秒98の大会新で優勝。日本選手として初めてVWCに本格参戦し、成績上位5大会の総合で決める年間ランキングは17年、18年ともに3位。172センチ、57キロ。35歳。青梅市出身。

 文・牧田幸夫/写真・市川和宏

 

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