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スポーツのしおり

(40)「秘めたるは言葉の力」 悩んだときに

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 何げないひと言が背中を押し、世界が開ける。直木賞作家、西加奈子の著書「おまじない」は悩みを抱えた女の子たちが魔法の言葉に救われる物語。紆余曲折の多いアスリートたちにもそのような経験がある。

 昨年の柔道世界選手権女王、渡名喜風南には負けが続いた時期があった。落ち込む娘に母親がボソッとつぶやく。「テレビでどこかのおばあちゃんが『死ぬこと以外かすり傷』と言っていたよ」。スーッと胸に入ってくる。競技に集中し、視野が狭くなっていた。負けてもかすり傷。死ぬわけではない。ならば、心の傷に絆創膏を張り、また頑張ればいい。

 スポーツクライミングの野中生萌は不調に陥った中学時代、姉の部屋に飾ってある文言が目に留まった。「今に見てろ、と笑ってやれ」。その言葉は、まるで自分に語り掛けているようだった。「今はだめでも、その先も悪いとは限らない。『笑ってやれ』というのが、どこか余裕を感じられて好き」。毎年、手帳に記す、夢への活力となるおまじない。

 本来ならネガティブな言葉を前向きに捉える選手もいる。トライアスロンで3大会連続五輪出場の上田藍は鎖骨を骨折し、思い描く動きができなくなった。トレーナーから「勘違いすることが重要だよ」と助言された。「自分はこれをできるんだと信じること。やってみると、意外とできちゃうこともある」。勘違いは一歩踏み出す勇気を与えてくれる。

 悩んだら、おまじないを唱えてみる。効くか効かないかは分からない。だけど、心が落ち着き、力が湧く。だから今日もまた頑張れる。

 文・森合正範/写真・内山田正夫・共同/デザイン・高橋達郎

 

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