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【ドナルド・キーンの東京下町日記】

平成は日本の転換期

クリスマスツリーを手にするドナルド・キーンさん=東京都文京区で

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 平成最後の年末を迎えている。昭和から年号が変わり、その後の三十年間は日本の大転換期だった。何といってもバブル経済の影響が大きいだろう。私が教壇に立っていたニューヨークのコロンビア大学も少なからず、影響を受けた。

 バブル経済の崩壊から十分には立ち直れない中、少子高齢化が進み、さらには経済的に急成長中の中国が東アジアで存在感を増している。何とはなしに停滞感が漂う今の日本からは、想像しにくいかもしれないが、平成元年は米国で「日本脅威論」が真剣に議論された年だった。

 米国の象徴ともいえるニューヨークのロックフェラー・センターが日本企業に買収され、日本人が大挙して米国の大学に留学するようになった。一方、海外では日本への関心が高まり、コロンビア大学でも、日本経済を研究するプログラムができた。私の日本文学の講義にもちょっとしたバブルがあり、学生数が増えたことを覚えている。

 問題はそれからだ。バブル崩壊で日本は急激に縮み志向、内向き志向に陥っている。私が心配なのは、日本人が自信を失っているように見えることだ。

 確かに、米国に留学する日本人の数は激減した。日本経済に関心を持つ外国人も少なくなった。だが、海外で日本の文学や文化に関心を持つ人は、依然として増え続けている。

 米オレゴン州のポートランド州立大学で日本文学を教える、私の教え子のラリー・コミンズと先日、東京で会った。彼は歌舞伎や文楽に関心を持ち、同大で学生に英語歌舞伎を演じさせるプログラムを十年以上も続けている。同大の学生による定期公演は、地元で大人気のイベントだ。

 二年前に、コミンズ劇団の英語歌舞伎「忠臣蔵」を見た。「忠臣蔵」は、日本ではかつてほどの人気ではないそうだが、逆に米国では、日本人の精神性を理解する上で格好の舞台として受け入れられている。

 もちろん、日本で外国人観光客に歌舞伎は人気だし、文楽や能、狂言に関心を持つ人も増えている。日本人は「欧米にはない特異性で珍しがられている」と思いがちだが、そうではなく「普遍的な芸術」として高く評価されている。

 こんな実例もある。日本では、江戸時代に浄瑠璃に押されて廃れた古浄瑠璃。それを昨夏、ロンドンで復活公演したところ大成功して、現地メディアにも取り上げられた。今や、日本文学は世界中、どこでも現地語による訳本がある。

 そもそも、なぜ日本への外国人観光客が増えているのだろうか。一時期は、「爆買い」に象徴される買い物客だったかもしれないが、今は違う。日本文化の体験が目的のリピーターが増えている。外国人労働者の受け入れが社会問題となっているが、人として受け入れればいい。日本語を覚え、日本を知り、日本人になってもらう。そうすれば、私のように生まれ故郷で日本の素晴らしさを広めてくれるはずだ。 (日本文学研究者) =編集・鈴木伸幸

 

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