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【ドナルド・キーンの東京下町日記】

キーンさん追悼 「ドナルド・キーンの東京下町日記」を振り返る

春めいた陽気の中、自宅近くを散策するドナルド・キーンさん=2017年3月、東京都北区で

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 二月に九十六歳で亡くなった日本文学研究者ドナルド・キーンさんが本紙朝刊で連載した「東京下町日記」は、二〇一二年十月に始まった。当初は月一回だったが、キーンさんの負担軽減で一八年から随時掲載となり、最終的には足掛け八年、七十回続いた。読者の皆さんから再掲の要望があり、それに応えてダイジェストで振り返ります。

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 キーンさんは日本文学の裏話を次々と紹介した。「ノーベル賞と三島、川端の死」(13年10月)では、作家の三島由紀夫がノーベル賞を欲していたことを明かした。三島は有力候補だったが、結局は川端康成が一九六八年に文学賞を受賞。落胆した三島は「豊饒の海」を書き上げ、七〇年に自決した。その数日後、米ニューヨークのキーンさん宅に、三島の遺書が航空便で届いた。

 三島を高く評価していた川端は、受賞後に思ったような作品を書けずに七二年に自殺する。三島が受賞していれば歴史は違ったと、キーンさんは感じていた。

 「豊饒の海」は自決した日に書き上げたとされているが、実はその三カ月前にはできあがり、三島はキーンさんに読ませようとした。それを、キーンさんは「三島との最後の晩餐」(16年2月)で記した。

 「荷風のまなざし」(14年2月)では、作家の永井荷風との面会を詳述した。「きたないところですが」との荷風の言葉通りに床にはほこりがたまり、荷風も前歯の欠けた風采の上がらない老人だったという。

 「日本へ導いた大恩人」(16年7月)では、「源氏物語」の英訳者として知られるアーサー・ウエーリに、作家の谷崎潤一郎が「細雪」を英訳してもらおうとしたことを明かした。

 「玉砕の悲劇 風化恐れる」(16年12月)「日本兵の日記 私の原点」(15年4月)などでは、太平洋戦争時の自分史に触れた。米海軍の語学士官だったキーンさんは日本軍の玉砕現場にぼうぜんとし、戦死しただろう日本兵が戦場で家族に書き残した日記を読んで心を揺さぶられた。

 「沖縄戦の日系米兵」(13年12月)には、沖縄に上陸したキーンさんがまだ戦闘が続く中、沖縄出身の日系人米兵の親戚宅を訪問したことを書いた。

 戦争で国際的に孤立した日本が戦後、国際社会に再び仲間入りするために、文筆家らでつくる日本ペンクラブが果たした役割は大きい。終戦直後に同クラブ会長だった川端康成は国際ペン大会の日本誘致に尽力し、一九五七年に実現。米代表団の一員として参加したキーンさんは、その体験を「日本文学伝えた国際ペン」(17年12月)などに記した。

 同大会で、キーンさんは戦時中にハワイの捕虜収容所で知り合った元日本兵と偶然、再会。戦前に記者だった元日本兵は復職していた。連載が載った時には、その記者は亡くなっていたが、読んだ妻がキーンさんに手紙を書き、新たな交流が生まれた。

 読者から最も反響があったのは、意外にも文学関係ではなく、「五輪報道への違和感」(16年9月)だった。この年の夏に開かれたブラジル・リオデジャネイロ五輪で、メディアは日本選手の活躍を一斉に、しかも紋切り型で報じた。まるで大本営発表を思わせるような画一報道に、キーンさんは「これでいいのか」と意見した。

 連載が始まる前年の三月には、東日本大震災が起きた。震災はキーンさんが日本国籍を取得するきっかけとなり、「被災者への思い忘れてないか」(13年3月)など毎年三月には、震災と福島原発事故の被災者への思いをつづった。

交流のあった瀬戸内寂聴さん(左)と談笑するキーンさん=15年10月、京都市で

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 〇八年に文化勲章を受章したキーンさんは、さまざまな分野の大家とも交流があった。「『世界のオザワ』に学べ」(15年9月)などで、キーンさんと同年に文化勲章を受章した指揮者の小澤征爾さんや作家の瀬戸内寂聴さん、演出家の宮本亜門さんらとの交流記を残した。

 平和主義のキーンさんは護憲派だった。「憲法九条行く末憂う」(14年1月)では、同じく護憲派の歌手、沢田研二さんから、日本の将来を不安視するバラード「Uncle Donald(ドナルドおじさん)」を贈られていたことを紹介した。

特別講演会後のサイン会でファンと握手するキーンさん=16年9月、新潟県柏崎市で

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 ■キーンさんのお別れの会が10日、東京・南青山の青山葬儀所で行われる。一般献花は午後3〜4時。

 文・鈴木伸幸/写真・北村彰、伊藤遼

 

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