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【タイムライン】

アジア杯、W杯 苦い記憶 日本、柔軟な対応力どう養う

インタビュー映像で登場したベルギーのマルティネス監督=1月、高知市で

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 今月1日に行われたサッカーのアジア・カップ決勝で、日本はカタールに完敗を喫した。森保一監督が選手に求める「対応力」「柔軟性」は、柔軟に戦術を使い分けて勝ち上がってきたカタールに、皮肉にも上回られた。選手の「柔軟な対応力」とは、育成年代からどう養うのか。日本サッカー協会が国内外の指導者を集めて1月に高知市で開いた「フットボールカンファレンス(会議)」での報告をもとに探った。 (上條憲也)

 前半27分で0−2。大会7戦目となった決勝で、日本は初めて2点を先行された。カタールは対戦相手により最終ラインを4バック、3バックと使い分け、日本戦は3バック。中盤に選手を増やした分、対する日本は攻守の要を担う2人の守備的MFが振り回される。ハーフタイムでマーク役などを修正し、後半は流れを引き寄せるも、途中交代も含めて試合をひっくり返すまでの効果はなかった。

 2点差からの逆転といえば、昨年のワールドカップ(W杯)ロシア大会で、西野朗前監督が率いた日本がベルギーに敗れた一戦は苦い記憶だ。そのベルギーを率いたスペイン出身のマルティネス監督が折しも、日本協会の要請に応じてカンファレンスに収録映像で出演。日本戦で「予想外だった」という後半7分までの2失点から逆転した背景を「適応力と柔軟性だ」と説明した。後半20分に2人の中盤選手を投入すると、全体が呼応して5バックから4バックになる。中盤で厚みと高さを増した攻撃で「日本の動揺を突いた」という。

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 多彩な戦術の根源をマルティネス監督は「教育だ」と言う。ドイツやオランダなどと国境を接するベルギーは、サッカー選手も若くして隣国などのトップリーグでプレーする。監督によると「さまざまなタイプの指導者と接することで、選手は柔軟性を身に付けていく」。

 1次リーグで敗退した2000年欧州選手権を機にベルギー協会が進める育成年代の指導法も、成果を表してきた。子どもたちは「ひし形」を形づくるグループを基本にした練習で連係を学び、年齢に応じてひし形を二つ、三つと組み合わせて連係を増やす。その中で、4バックや3バックなどの変化も学ぶ。「システムは変わっても周囲との連係は変わらない」とマルティネス監督。布陣を使い分けながら勝ち進んだW杯ロシア大会では3位に輝いた。

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 アジア杯の決勝は、W杯後に顔触れが変わって新体制となった日本と、育成年代から同じメンバーでチームとして連係を深めてきたカタールの「熟成度の差」が表れたともいえる。ただ日本のサッカーはとかく、ポジションなどの役割はこなす一方で柔軟性に欠けると指摘されてきた。

 日本協会が中学高校年代を対象にエリート養成を目指すアカデミー福島でコーチを務める加藤好男氏は、「家庭のしつけや学校教育の中で、子どもが大人に言われるままに物事をやっている環境だと、なかなか厳しい」と環境の重要性を指摘する。

 カンファレンスで進行役を務めた元日本協会技術委員長の小野剛氏(現・日本フットボールリーグFC今治監督)は「日本社会は比較的、セーフティーネット(安全対策)が重視される。その中で『非日常』を培っていく必要がある」と指摘。

 海外遠征などの経験に加え、選手自身に瞬時の判断が常に求められる「強度の高い試合」を各地に整備する必要性を挙げ、「10対0で勝つような試合ではなく、拮抗(きっこう)した試合をもっとつくり、選手が自らの経験から何かをつかんでいくことが大切だ」と話す。

W杯ロシア大会の日本戦で、後半20分にMFシャドリとともに投入されたベルギーMFフェライニ(手前)=2018年7月2日、ロストフナドヌーで(岩本旭人撮影)

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◆アイスランド・フランスの成功例 良い指導者と出会い大切

 代表チームが成果を表すには、育成年代からの取り組みや、若年層の才能を引き出す指導者の存在が欠かせない。カンファレンスでは、W杯ロシア大会で注目された各国の事例が、それぞれの関係者から紹介された。

 新宿区とほぼ同じ人口約35万人のアイスランドは、W杯初出場ながらアルゼンチンなどに善戦。アイスランド協会のビル氏は「重要なのは若い子に優秀な指導者をつけることだ」と成果を強調した。

 かつて若者のドラッグや飲酒問題がまん延したのを受け、20年ほど前から行政を挙げて改革に着手。自治体が各地に整備したスポーツ施設を各クラブが運営し、子どもの参加を促した。指導者は欧州サッカー連盟(UEFA)のライセンスを持ち、子どもたちは男女問わず練習初日から有資格者にサッカーを教わる。「良い指導者との出会いは選手のメンタルを良くする」とビル氏は説明する。

 フランスからは、20年ぶりのW杯制覇に大きく貢献したエムバペ(20)について紹介があった。エリート選手を養成する国立サッカー学院出身だが、当時のエムバペを指導したフランス連盟のラファルグ氏は「入校時はそれほど素晴らしいパフォーマンスを持っていなかった」と振り返る。高い観察力や賢さがあった一方で当時は小柄だったといい、「もし40メートル走で比較していればエムバペは発見できなかった」。選手の将来をいかに見通すかが重要だという。

 

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