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【タイムライン】

天賦の才能、大きく開花 小林陵 ジャンプW杯総合優勝

総合王者を決めた後、初めてとなるW杯で3位に入った小林陵侑の飛躍=リレハンメルで(共同)

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 ノルディックスキーのジャンプ男子で、22歳の小林陵侑(りょうゆう=土屋ホーム)が日本勢で初めて、欧州勢以外でも初となるワールドカップ(W杯)個人総合優勝の快挙を成し遂げた。昨年11月の個人第2戦でW杯初優勝を飾ると、今季11勝。安定して力を発揮できるようになったのは、精神的な鍛錬の成果や、技術のコツを感覚的につかめる天賦の才能が大きく開花したからだった。

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◆「緊張」も力にメンタル強化

 「感覚の天才」。小林陵が所属する土屋ホーム(札幌市)スキー部の千田侑也部長は、日本選手初のW杯総合優勝を果たした22歳をそう評す。助走の際の重心の位置や姿勢など、微妙なずれが結果に直結する競技で、わずかな変化を鋭く察知する能力は大きな強みだ。

 ただ、昨季までは頭で分かっていても動作に結び付けられずにいた。その課題を克服し、今季の飛躍を実現したのは、精神面の充実が鍵となった。

 過去には「緊張で動けなくなることもあった」という小林陵が、昨春から取り組んだのがメンタル強化だ。遠征から帰国すると、専門家の指導で緊張の仕組みを学んだ。例えば、どんな言葉を唱えれば、リラックスできるのか。千田部長が「感覚だけに頼るのではなく、調子が良いときのジャンプを理解した上でやれば実力になる」と読んだトレーニングが功を奏した。

 小林陵が好調の要因を語ったことがある。「緊張を受け止められるようになり、落ち着いてジャンプに向き合えている」。自然にも左右され、一流の選手でさえ勝つことは容易ではないジャンプで「自分の良いイメージは頭の中で保っている」と話す青年が今季、誰よりも勝利を重ねた。

 2季前のW杯では、上位30選手に与えられるポイントを一度も獲得できなかった。それが今では目の肥えた欧州のファンにも「Roy(ロイ)」と愛称で呼ばれるほどの存在に。心の成長が鍛えた体と磨いた技術を存分に生かすエンジンとなり、ジャンプ史に名を刻んだ。 (中川耕平)

◆「手の届かない存在」

 「中学の時から手の届かない存在だった。(強すぎて)腹立たしくも思ったけど、今となっては(一緒に練習できて)光栄」。ジャンプのW杯で日本男子初の個人総合優勝を果たした小林陵。岩手県八幡平市で過ごした中学時代のスキー部の1学年先輩だった元選手、米田啓拳(まいた・ひろむ)さん(22)は、今季の活躍をたたえる。

 中学から競技を始めた米田さんにとって、幼少期から飛び続けていた「後輩」はすでに「お手本のような存在だった」。何より物おじしない性格が印象的だったといい、「あいつは飛びすぎて『ヤッホー』『あっぶねー』という感じで、僕も見習っていた」。

 当時、2人が所属するスキー部の顧問だった永井陽一さん(37)は「天性のものがあった」と感覚的にコツをつかむ才能があったと振り返る。永井さんはノルディックスキー複合の日本代表永井秀昭(35)=岐阜日野自動車=の兄で、自身も現役の選手。「飛び出しの角度とか基本的なことは教えた」と回想し「ジャンプの質が高く、いずれは世界で活躍すると思っていた」。

 地元では「ジャンプ4きょうだい」として知られる。次男・陵侑とともに、長男の潤志郎(27)=雪印メグミルク=は昨年の平昌冬季五輪に出場した。長女の諭果(24)=CHINTAI、三男の龍尚(17)=たつなお、盛岡中央高=も各種大会で活躍してきた。

 1月にジュニアの世界選手権に出場するなど今後が期待される龍尚は、すらりとした体形が陵侑に似る。「(小林陵は)口数は少ないけど、ひと言ひと言にヒントが隠されている」と手本にする。諭果は「アプローチ(助走)も台への力の伝え方も陵侑はすごい上手。(トップ選手に比べても)1人だけ違うところを飛んでいるよう」と感心しながら、「次の五輪(2022年北京大会)は一緒に出られるよう、気合を入れ直したい」と自身の発奮材料とする。 (上條憲也)

◆「5ミリ」の変化 快挙の礎

 今季大躍進した小林陵。日本勢で初の快挙は、昨夏からの「5ミリ」の変化が礎になっている。

 昨季に比べ、今季は靴底を5ミリ厚くし、スキーと靴の間に挟むプレートは5ミリ削った。小林陵はこの微調整で「飛び出した瞬間に板がすぐ(体の方に)くる」ようになったと明かす。踏み切りから滑空姿勢への移行が抜群に早くなったことで、昨季まではW杯の表彰台に立ったこともなかったジャンパーが変わった。

 スキーを体にいち早く引き付けることで、無駄な空気抵抗を受けずにすむ。助走の勢いをロスせずに前方へ飛び出すから、雪面から離れた高い位置を飛行できるようになり、飛距離が伸びた。

 もともと身体能力には定評があり、所属先の監督を兼ねる葛西紀明が「世界で勝てるぐらいの体は持っている。瞬発力も、持久力も、ジャンプ力もある。すごいバランスの整った体」と評するほどだった。高い潜在能力がわずか5ミリの違いで開花した。 (共同)

 

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