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【タイムライン】

五輪へ「いだてん」競走激化 大会ごと相互刺激 選手層に厚み

(左上から時計回りに)大迫傑、設楽悠太、服部勇馬、井上大仁

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 東京五輪のマラソン代表選考レース「グランドチャンピオンシップ(MGC)」(9月15日・明治神宮外苑付近発着)の出場権を懸けたMGCシリーズは、男女ともに全日程を終えた。男子は設楽悠太(ホンダ)、大迫傑(ナイキ)が日本記録を更新し、世界の背中がうっすら見えてきた。選手層も厚くなり、30人がMGC切符を獲得。好況の要因を探ると、三つのキーワードが浮かび上がった。 (森合正範)

◆男子マラソン復権へ

(1)起点の福岡

 「あのタイミングであの3人だったことが大きい。選手それぞれが『オレもやれる!』と変わっていった」。MGCに3人を輩出したMHPSの黒木純監督はそう振り返る。

 2017年12月3日。夏の北海道を経て、冬のMGCシリーズ初戦となる福岡国際。ここで出場権を獲得したのは、のちに日本記録を樹立する大迫、ほぼ無名の上門大祐(大塚製薬)と竹ノ内佳樹(NTT西日本)の3人だった。

 国内初マラソンで、2時間7分19秒の3位に入った大迫の走りはトップ選手に刺激を与えた。設楽は「あの記録を超えようと思った」と翌18年の東京で16年ぶりに日本記録を更新。18年福岡国際で優勝した服部勇馬(トヨタ自動車)は「前年の大迫さんの走りで世界と闘えるんだと思った」。日本勢の目標を大きく引き上げ、昨夏のジャカルタ・アジア大会を制した井上大仁(MHPS)を加えて「4強」と呼ばれるに至った。

 一方、上門と竹ノ内の好走は、MGCを狙う多くの選手に希望をもたらした。当時2時間10分台の木滑良(MHPS)は「正直、二人の名前はあまり聞いたことがなかった。『それなら、僕も走れる』と思った」と打ち明ける。手探りから、MGCが明確なターゲットへ。選手の意識が高まり、勢いに乗った。

(2)心の壁

 11年以降、最前線で走り続ける川内優輝(埼玉県庁)はMGCを契機に選手の変化を感じ取っていた。かつて日本勢に存在した「心の壁」が強制的に取り除かれたと分析する。

 「まずは連戦への壁。以前は頻繁にレースに出ていたのはごく一部の選手で、2、3カ月間隔では無理だと思われていた。でも、MGCの基準を突破しようと走ってみたら、案外走れる。少し休んで、すぐに良い状態に戻す調整法や、1年に4本走った方が結果が出る人もいる。そういう選手層が発掘された」

 昨年12月の福岡国際から2月の別府大分毎日へ挑んだ橋本崚(GMO)、3月の東京へ進んだ神野大地(セルソース)らは短期間のレースで切符をつかんだ。

 もう一つは「海外への壁」だ。川内は「(日本勢が)こんなに外で走ったことはない」と言う。大迫、藤本拓(トヨタ自動車)、中村匠吾(富士通)、佐藤悠基(日清食品)、上門、神野らが世界へ目を向け、次々と海外レースを経験。4月、井上がボストンに挑戦するなど、今後も海外志向は加速していくだろう。

(3)箱根の下地

 競技力の向上は一朝一夕にできることではない。日本陸連によると、16年リオデジャネイロ五輪時に同じ条件を当てはめると男子の獲得は15人になる計算。その2倍となる30人の進出者をもたらす土台が日本男子にはあったのだ。

 坂口泰・男子五輪強化コーチは「箱根駅伝という下地がある。これは財産。日本には膨大な長距離選手がいる」と力を込める。実際、出場権を得た30人のうち24人が大学時代に箱根路を走っている。下地のある実力者が五輪本番3年前から月日をかけてマラソンへの転換を図っていった。

 MGCは潜在能力を引き出すための仕掛けだったといえる。瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは「ここまでは思惑通り」と大きくうなずいた。

◆女子 顔ぶれ順当、好循環なく

 女子は当初目標の20人超には届かなかったが、瀬古リーダーが「出てほしい選手はほとんど出た」と言うように、順当な顔触れがそろった。

 13年世界選手権銅メダルの福士加代子(ワコール)、自己記録が2時間21分台とMGC進出者では最速の安藤友香(同)らに加え、松田瑞生(ダイハツ)や鈴木亜由子(日本郵政グループ)ら、トラックの実力者がマラソンで上々の滑り出しを見せた。

 一方、男子のように「当落線上」の選手が続々と名乗りを上げ、ライバルへの刺激になる好循環は見られなかった。陸連強化委員会の河野匡・長距離・マラソンディレクターは「(女子ならではの)早期引退が何らかの原因にあるのか」と指摘する。

 日本では依然、結婚などを機に第一線を退く選手が少なくない。河野ディレクターは「2時間30分を切って、これからと思った若い選手が結構引退している」と言う。MGCは少数精鋭となったが、アフリカ勢に対抗できるスピードや切り替え能力のあるトラック出身者を軸に、ハイレベルな競り合いが期待される。

  (佐藤航)

◆ワイルドカードは4月末まで

  MGCシリーズは終了したが、上位2レースの平均記録などが条件となる「ワイルドカード」でMGC切符を手にする道は4月末まで残されている。

 男子長距離界の名門、旭化成からはまだ出ておらず、村山謙太らは海外レースなどで最後の望みをかける。

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