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【ふくしま便り】

子の甲状腺検査 縮小は是か 6年目の被災地 うずまく議論

甲状腺検査の在り方について新たな提案があった県民健康調査の検討委員会。前列左から2人目が星座長=福島市で

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 原発事故による健康被害が懸念される福島県で、子供の甲状腺検査を縮小する動きが顕著になり始めた。「不安をあおるのは子供の利益にならない」がその理由。一方で甲状腺がんの患者は増え続けており、見落としを心配して、より手厚い検査を求める声も少なくない。本当に子供たちの利益にかなうのはどちらなのか。六年目の被災地。県民を悩ませる議論の経緯を報告したい。

 年も押し迫った昨年十二月二十七日、福島市内で原発事故の影響を調べる県民健康調査の在り方を考える検討委員会が開催された。会に先だって、県から昨年九月末までに新たに十人が甲状腺がんと診断され、二巡目検査のがん確定は四十四人で一巡目と合わせると百四十五人となることなどが報告された。

 その後、座長を務める星北斗県医師会副会長が突然、「県に対して提案をしたい」と切り出した。提案の内容とは「中立的、国際的、科学的な」第三者委員会を新たに設置することだという。県側からは「初めて聞く話だ」と驚きの声が上がった。詳細を問われた星座長は「科学的議論は独立して行われるべきだ」と説明したが、話すうちに「もっと県民の理解が深まりそうな検討委の姿を本当は県の方で打ち返してほしい」などと、歯切れが悪くなった。

 昨年九月、市内で「放射線と健康についての福島国際専門家会議」が開かれた。招かれた海外の「専門家」たちは、口々に「福島県民の被ばく線量はチェルノブイリよりはるかに少ない」「甲状腺異常の増加は、高性能の診断器を導入したため」などと主張。(1)健康調査を自主参加とする(2)新たな作業部会の招集−などを柱とする提言をした。星座長の発言は、(2)の実現を想定しているのではないか。諮問機関のメンバーの選定をやり直したい狙いが透けて見える。

 実は(1)の方針に基づく検査の縮小はすでに始まっている。

 あらためて説明すると、県民健康調査の甲状腺検査は、これまで二つ実施されている。一つは震災発生時に十八歳以下だったすべての県民を対象にした一巡目の「先行検査」。次に原発事故直後に生まれた県民を対象者に加えた二巡目の「本格検査」。さらに昨年四月に三巡目が始まったが、ここで検査の方法が一部変更となった。

 県民に配られる案内書に、検査に同意するか否かなどの選択欄が設けられ、「同意せず、検査の案内も不要」と答えた人には以後、案内書は送られない。「すべての子供」が対象のはずが希望者だけになったのだ。

 なぜ縮小されたのか。県の県民健康調査課は「識者らが検査の在り方を検証する評価部会の意見に沿った」と話す。

 一昨年三月、評価部会が発表した中間取りまとめには、こんな文言がある。「原発事故は、福島県民に『不要な被ばく』に加え、『不要だったかもしれない甲状腺がんの診断、治療』のリスク負担をもたらしている」

 だが、頻繁に使われる「過剰診断の不利益」という言葉ほど理解しづらいものはない。検査を受ける県民の不利益とは、わずかな手間と時間を費やすこと以外にあるのか。検査を受ける不安と、受けない不安とどちらが大きいか。通常の医療では、間違いなく後者が重要視される。

 検討委員会では、がんの見落としを心配する委員の声も複数あった。ならば、むしろ検査の充実こそが求められるべきだ。

 昨年三月に家族会が組織されるまで、甲状腺がんの子供を持つ家族は孤立無援の状態だった。情報を外に出すまいとした国や県や福島医大がそうさせたといっても言い過ぎではない。

 実際に「がんを公表すると差別を受けるよ」と医師に脅された患者もいた。背景に「がん患者の存在が復興の妨げになる」といったゆがんだ考え方があるのではないか。検査縮小も同じ隠蔽(いんぺい)体質の延長線上にあるとしたら、これほど罪深い話はない。 (福島特別支局長・坂本充孝)

 

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