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【長久保宏美のリポート福島】

被災写真をきれいに復元 生きた証し、家族の元へ

岡山県内の写真館から依頼された写真を、洗浄後に乾燥させる伊藤芳貴さん(手前)=福島県本宮市で

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 豪雨や地震による被害のニュースに触れるたびに、気になることがある。被災現場で回収されたアルバムの写真の行方だ。福島県本宮市で写真館を営む伊藤芳貴(よしたか)さん(43)は、被災写真の洗浄から乾燥までを引き受けている。

 七月の西日本豪雨。被災地から届いたアルバムは土砂に流され、水につかり、泥だらけだった。その写真の復活に、伊藤さんが挑んだ。岡山県笠岡市の写真館主が、SOSを送ってきたのだ。

 伊藤さんと写真館主は、全国の若手写真館経営者約五百五十人で構成し、技術の向上や人材育成を図る団体「PGC(パイオニア・グリーン・サークル)」の仲間。豪雨後、写真館主が洗浄を引き受けているという話が地元で広まり、住民から何万枚もの洗浄が集中、手に負えなくなっていた。

 伊藤さんは、サークルの東北ブロックの仲間約三十人と手分けすることに。アルバムを汚れたまま、宅配便で各写真館に送ってもらう手配をした。伊藤さんの写真館でも八月初旬に連日、従業員らが総出で、一家族分の作業に当たった。作業は無料だ。

 「写真は、ベースとなる紙の上に乳剤が載っています。泥水につかると、乳剤が四隅からはがれてきて、そこに水が浸食してしまう」と伊藤さん。

 それを、どうやって復活させるのか。

 「アルバムから丁寧にはがした写真を、水槽の水に入れます。水の中で、写真の乳剤の面の中央部分から、指先で円を描くように、そっと泥を落とす。その後、別のおけの水に入れ、すすぎます」

 次に乾燥。丸まらないよう、ドライヤーは使わない。

 「曲がったり、ほかの写真とくっついたりしないよう、写真の隅に針で穴を開け、釣り糸を通し、エアコンを入れた撮影スタジオにつるして、まる一日かけて干します。すべてとは言えませんが、きれいに復元できた写真を送り返しました」

写真を洗浄するボランティアら=同県南相馬市で(いずれも伊藤さん提供)

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 伊藤さんには東日本大震災の際、津波で流された多くの水没写真を洗浄した経験があった。二〇一一年四月、大きな被害を受けた福島県南相馬市に、父親(70)と向かった。ボランティアセンターに登録し「写真の洗浄をやらせてほしい」と申し出た。

 被災した現場には、アルバムを集める場所が決めてあった。行方不明者を捜索していた自衛隊員が、がれきの中からアルバムを見つけると、必ず回収してきたという。

 「アルバムって、その人の生きた証しなんです。赤ちゃんなら生まれてからそれまでの、大人なら家族で旅行に行った時の、すべて人生の思い出なんです」と伊藤さん。

 南相馬市内の指定された作業場で、地元の写真館主の男性(50)と一緒に洗浄に当たった。洗っていたのは偶然にも、男性の写真館で以前撮ったものだった。

 「そのお客さんの安否が分からない状況で…。そばで見ていて切なかったですね。生き残った人たちに写真を返すのが使命なのだと、自分に言い聞かせながら作業を続けました」

 七年半前の福島での経験と思いが今年、西日本豪雨の被災者のために生かされていた。 (福島特別支局長)

 

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