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【長久保宏美のリポート福島】

<大野孝志>「なぜ放射線を学ぶのか」 二本松市の「出前授業」年86教室

放射線出前授業をする木村准教授と、意見を言おうと手を挙げる児童ら

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 福島県二本松市の小中学校の「放射線出前授業」が五年目となった。東京電力福島第一原発事故の体や社会への影響について、専門家が学校を回って教える。授業は放射線を学ぶ理由から始まり、事故で避難した人たちの思いや、被災者への差別に及ぶ。二本松北小で授業参観した。

 「今日は、放射線の勉強をします。なんで勉強するのかな?」。一年生に「出前」した、市放射線アドバイザーの木村真三・独協医科大准教授(放射線衛生学)が、授業の理由を問い掛けた。

 児童らは原発事故の後に生まれた。木村准教授が「みんなの多くがお母さんのおなかにいたころ、とても大きな地震がありました。大きな津波が起き、たくさんの人が亡くなりました」と告げると、児童らが「津波で、原発っていう所が爆発した」と答えた。

 「よく知ってるね。爆発して、家の周り、山や川で放射線が増えたの。だけど、放射線は目に見えない。普通の景色と変わらないんだ」と木村准教授。「放射線は目に見えないけど、私たちの体に入ると、悪さをします」「私たちの体はたくさんの細胞でできています。その細胞に放射線が当たると、細胞がけがをします」と、教材の「放射線パンチ」のイラストを示した。

 「細胞くんはけがを治そうとするけど、なかには悪者に変身するものが出てきます。体に悪者が増えると、病気になります」。「え〜っ」と児童たち。木村准教授の声のトーンが上がる。「放射線は原発が爆発した後、私たちの周りに増えました。だから身を守るために勉強して、気を付けないといけないんだね」

放射線の影響について学ぶ、5年生の児童ら=いずれも福島県二本松市の二本松北小学校で

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 出前授業の正式名は、二本松市教委の「放射線教育アドバイザー派遣事業」。原発事故を受け、県教委が放射線の影響について、学校で教員が教えることにした。市教委は前教育長の依頼で、木村准教授らと教材づくりを始めた。

 「出前授業」は当初、教員らへの例示として始まった。だが、専門とは違う放射線を教えるのは、教員の負担になる。被災当事者の地元の教員には教えづらい点もある。そこで、木村准教授が手弁当で学校を回り、授業をすることになった。二〇一四年に始まり、一八年度は約二千六百人の全小学生と、七校中二校の中学生約六百五十人を対象に、八十六教室で実施した。

 その狙いを、同市出身の紺野宗作・二本松北小校長が説いた。「放射線を可視化するような理科の実験で終わってはいけません。子どもたちが未来に向けて放射線を正しく怖がり、福島への偏見や差別に反論できるようにしたい」

 五年生の授業では、避難した人たちの思いや損害賠償、差別の問題に及んだ。七十人の児童らがおしゃべりもせず音も立てず、耳を傾ける。木村准教授が、熱く語る。

 「原発事故で、自宅に住めなくなった人が何万といる。先祖から受け継いできたものを、すべて失った。国や東電は、お金で償おうとする。『お金がたくさん入って、いいよなあ』じゃないんだ」

 授業の最後は、いつまで気を付けるのか、だった。「セシウム137の量は、あと二十二年かかって、やっと半分になる。その頃、君たちは大人。子どもがいるかもしれない。自分の子や孫の代まで気を付けないといけないから今、学ぶんだ」 

  (大野孝志)

 

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