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【東京新聞フォーラム】

東京新聞フォーラム『どうなる景気 安全・安心を考える』 各氏コメント

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積極策で危機を好機に

元財務相 塩川 正十郎氏

 経済を良くするには安全・安心を消極的な意味ではなく、積極的な取り組みとして考えるべきだと思います。

 三十年ほど前に公害問題が起きた時、日本の経済は一つのピンチでした。それから空気を良くし、水もきれいにしようと努力した結果、東京の空は非常にきれいになりました。米国で排ガス規制の動きが出た時も、日本の自動車会社は、排ガスを減らす技術開発を一生懸命やりました。今や日本車は世界で最も二酸化炭素(CO2)排出量が少ない優秀な車になり、どんどん売れています。つまり、ピンチをチャンスに変えたのです。

 ところが今は、安全・安心に重点を置こうとするばかりに、経済が停滞しています。

 最近、経験したのですが、株を買おう、預金しようと思っても、電話ではなくて実際に本人に来てもらって確認が必要だといい、なかなかできません。なぜこんなに窮屈な世の中にしたのでしょうか。所管の金融庁は「安全を守るためには仕方がない。個人保護です」と言いますが、その一点張りでは責任逃れもいいところです。

 そういう空気があるから、政治家も実業家も、リスクをとって積極的に動こうとはしません。

 世界を見ると中東は今、景気が良く、どんどん高層ビルが建っています。手掛けているのはほとんど韓国のゼネコンです。ところが実際に働いているのは、高い月給で雇われた日本のゼネコンの技術者たちなのです。日本には金が余っていて、技術もあるのに身動きせずにジーッとしています。安全・安心と言っていればすむという姿勢が、こうしたリスクを取らない姿勢にもつながっていないでしょうか。

 人口が減り、資源が不足する中で、日本が生きていくには発想の転換が必要です。政治の決断も大事になるでしょう。

 将来の少子高齢化を考えれば、一つは社会保障の充実。もう一つは、少数であっても優秀な人間をつくるための教育と研究、この二つの方向に金をつぎ込むことが必要です。

 そうするためには、どの程度の経済成長率が必要か、どんな産業に投資すべきかといった日本経済の目標も定まってくるでしょう。政治が大きなデザインを示すことが非常に大事な時期に来ていると思います。

 しおかわ・まさじゅうろう 1944年慶応大卒。67年衆議院議員に初当選。以後、11回当選。文部大臣、内閣官房長官、自治大臣などを歴任、2001年4月小泉内閣の財務大臣に就任、「塩爺(しおじい)」の名で親しまれる。現在、東洋大学総長ほかを務める。大阪府布施市(現東大阪市)出身。86歳。

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経営権限の集中防止を

経済同友会代表幹事 桜井 正光氏

 企業が消費者の安全・安心をどう確保するべきかを話します。最近は「えっ、まさか」と思うような事故や不祥事が増えました。社会保険庁の年金記録不備、遊園地のジェットコースター脱線事故、中国製ギョーザ中毒事件など、命や財産が脅かされる問題が相次ぎます。なぜ、問題が起こってしまうのでしょう。

 多くの企業は世の中のため、お客さまのために役立つ商品やサービスを提供しています。安心や安全も支えたいと考えている。安心とは商品やサービスを通して「この企業に任せておけば何も心配いらない」という全体的な信頼でしょう。安全とは特に生命、財産にかかわることです。

 では、いかに安全を確保するか。企業は、(1)未然の防止(2)起きた際の対処(3)原因の究明(4)再発を防ぐ−という四つの段階で考えます。

 未然に防ぐために商品やサービスをつくったり、提供する際の手順や気をつける点を示した「標準書」を作ります。事故が起こった時、実は作業工程通りにモノを作っていない、販売できていないことが一番多いのです。

 以前、ある乳業メーカーでは、バルブの洗浄を怠り、食中毒事件を起こしました。週に二度の洗浄という基本を守っていれば事件にはならなかった。マニュアル通りに仕事が行われているかを、日々管理することが重要なのです。

 もし事故が起こったら、早く情報を公開してお客さまの注意を喚起し、被害を最低限にしなければなりません。すぐに原因がわからない場合こそ、続けて問題が起こる可能性があるからです。

 再発防止に向けて、原因の究明を中途半端にすることはできません。真の原因を究明できた時に初めて仕事の仕方を考え、マニュアルを変えることができます。逆に、そもそも手順通りに仕事をしていなければ、表面的にマニュアルを変えても意味はありません。再び棚の中にしまっておくだけでしょう。

 不祥事を防ぐにはトップ経営者の倫理観が問われます。ただし、すべてを倫理観のせいにしているうちは本当の原因に行き着きません。必要なのは、一人に経営の権限が集中しないようにすることです。もう一つは社内だけでなく、取引先や関連会社、株主など会社を見る社内外の目を増やすこと、つまり開かれた企業をつくることです。

 さくらい・まさみつ リコー会長。1966年早稲田大卒業、リコー入社。84年、リコーUKプロダクツ(英テルフォード)社長。92年リコー取締役。常務を経て、96年社長。2007年から会長。同年から経済同友会代表幹事として、日本のあり方について忌憚(きたん)のない発言を続けている。東京都出身。66歳。

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不正見抜く目を持って

UBS証券エグゼクティブ・ディレクター 大槻 奈那氏

 金融アナリストの観点から安全・安心について考えます。

 金融の世界では、昨年八月以降、米国の「サブプライム住宅ローン問題」という言葉を耳にしない日がありませんでした。

 米国にとどまらず、日本でも機関投資家などの運用に影響が出ました。これまでずっと上昇していた個人の金融資産も約千五百兆円から五年ぶりに低下しました。

 三年ほど前に家族と米国に行った時のことです。どう見ても観光客の私たちに銀行員が「住宅ローンをお考えですか」と声をかけてきました。当時から積極的な、時として緩い貸し出しが行われていたのかなと感じます。

 なぜ問題が世界に広がっているのでしょうか。日本の不良債権問題の時は国内だけで済みましたが、サブプライム問題ではローンの証券化という手法で世界に輸出されてしまったからです。

 証券化というのは、この場合は借金の返済金を受け取る権利を証券にして投資家に売るという考え方です。

 その証券は、返済が滞るリスクが高そうな住宅ローンから、リスクの低いものまでいろいろな条件を集め、いわば一つの箱に入れたものです。投資の物差しになるよう、格付けというラベルを張りました。返済リスクが低ければ「AAA(トリプルエー)」というように。投資家は「これは安心安全な商品だ」という格付けを信じて買いました。

 実際には、ラベルについている格付けよりもリスクは高かったんですね。ここが食品偽装と似ていますが、安心して買った物から損失が出た。しかも世界中の金融機関に影響を及ぼした。さらには皆さんの個人資産に影響が出ているのです。

 金融商品は価格や利率が変動し、資産運用においては多い少ないは別にして一定のリスクは取らざるを得ません。しかし、サブプライムローン問題で明らかになったのは、専門家が評価したラベルを疑ってかからなければならない現状です。

 どう対応すればいいのでしょうか。自分にとって身近でリスクが分かるような商品を選ぶことです。投資も食品も有事の時はラベルを頼らず、自分の目利き能力を高めていかれたらよいと思います。

 たとえば不祥事を起こした企業の対応を見たらどうでしょう。

 経営トップがどう振る舞うか。緊急時こそ会社の品格や経営方針が見られるよい機会です。

 おおつき・なな 東京大卒。ロンドン・ビジネス・スクールで経営学修士取得。中央三井信託銀行と外資系金融機関を経て、スタンダード・アンド・プアーズで金融機関の格付けを担当。2005年、UBS証券入り。金融を中心に国内外の経済動向分析リポートを発行している。茨城県出身。43歳。

 

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