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【茨城】

オオハクチョウ「生きていて」 飛べず水戸で9年 昨秋から行方不明

左右の鼻の穴近くの黒い部分に黄色い点があるのが特徴の美希ちゃん(根本さん提供)

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 渡り鳥なのに飛べなくなり、水戸市の大塚池で九年間過ごした後、姿を消したオオハクチョウを捜し続けている人がいる。水戸白鳥研究会会員の根本邦宏さん(77)=水戸市新荘。この冬を越した群れにもいなかった。「生きていて」といちるの望みをつないでいる。 (茂木紀夫)

 そのオオハクチョウを根本さんが初めて見たのは二〇一〇年四月。多くの白鳥たちがシベリア方面へ帰る「北帰行」を撮影していると、オオハクチョウ二羽だけが旅立たずに居残った。うち雌雄不明の一羽を根本さんは翌年「美希(みき)ちゃん」と名付けた。

 池で長年観察を続ける先輩たちに聞くと、美希ちゃんは前年の春から池にいたという。当時は羽が灰色の幼鳥だった。二羽は行動を共にしていたが、うち一羽は一一年七月に死んだ。

 根本さんは、中学校教諭だった一九七一年から水生昆虫の研究を続け、ホタルの保護活動に関する著書もある。白鳥に関心はなかったが、二羽を見て「大塚池は真夏の水温が三〇度を超えた日もある。どこまで耐えられるか」との興味から観察にのめり込んだ。

 冬の大塚池へ多いときで一日七回、車で通った。デジタルカメラで動画撮影中にしゃべったことが音声メモになり、自宅で日誌に書き起こす。日誌には観察した日時と個体数がびっしり書き込んである。

 美希ちゃんは、くちばしの黒い部分に特徴がある。外見上は異常ないが、飛んでも百メートルほどで着水した。家族らしい四羽が飛来したときは、羽を広げて「クワーッ、クワーッ」とはしゃぐように大声を上げた。

 パートナーになったオオハクチョウが春、飛び立ってから何度か迎えに戻って来ても、一緒に帰れなかった。一方で、池に居つき、別の鳥や人にかみつくコブハクチョウが、ひとりぼっちの美希ちゃんに寄り添っていたこともある。

 そんな白鳥の生の営みを記録し続けた根本さん。研究者的な興味から観察を始めたはずが「情が移りました」と寂しがる。美希ちゃんの姿を最後に見たのは昨年九月二十三日。近くの湖沼を捜しても、市や県鳥獣センターに問い合わせても行方は分からなかった。

 「とびきり大きい美希ちゃんの鳴き声が、今でも頭から離れない。大塚池周辺で獣に襲われた形跡はなかった。誰かが連れ去ったのか…」。何が起きたとしても生きていてほしいと願っている。

 <オオハクチョウ>羽を広げると2・5メートルになる大型の水鳥で、日本にはロシア東北部の繁殖地から渡るとされる。山階鳥類研究所の標識調査による長寿記録は23年1カ月。大塚池には昨年10月下旬から約220羽が飛来。水草や田の落ち穂などを餌に越冬し、3月下旬に北帰行した。

大塚池で白鳥を観察する根本さん=今年3月、水戸市で

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