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【茨城】

<ひと物語>定年後、ワイン育てる Tsukuba Vineyard(つくばヴィンヤード)代表・高橋学さん(63)

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 つくば市内で研究者として勤め、六十歳の定年が五年後に迫っていた。先輩から「退職後の過ごし方は、今から準備しておけ」とアドバイスされた。

 「家でじっとしていられないし、自営業なら再就職より長く続けられる。農業を志せたらいいな、と漠然と考えていた」と語る。

 五十六歳の時、故郷の北海道を訪れた際、ブドウ栽培とワイン醸造をしている農家を見学した。特別にワイン好きだったわけではない。誰かの命令で動くのではなく、誰かに給料をもらうわけではないことに、魅力や生きがいを感じた。

 「ひょっとしたら自分でもできるんじゃないか、と思っちゃった。あれが間違いの元だった」と冗談めかして笑う。

 市農業委員会に相談し、つくば市栗原の再生された耕作放棄地七千平方メートルを借りることができた。ほとんど品種の知識もないまま、見切り発車の状態でブドウの苗を植え始めた。

 「自分なりに座学で調べたが、現場の経験が必要でブドウの病気を心配したり苦しい思いもしたが、今までの人間関係に本当に助けられた」と振り返る。

 県の事業で栽培や醸造、販売を学び、知識の素地ができた。作業は、友人らがボランティアで手伝ってくれる。古くからの知人の酒屋も、販売に協力してくれている。

 現在、借り受けた畑は約一ヘクタールにまで広がった。十八種類のワイン用ブドウを栽培し、つくばの気候と土壌に合った品種を模索している。

 退職後の一昨年からは、筑西市の酒造会社でワイン醸造を始めた。一昨年は千本、昨年は千七百本を二年連続で完売した。一方、倉庫や軽トラックなどの設備投資も必要で、まだ収支は赤字が続く。

 それでも、来年夏に農場の脇にワイナリーを建てることになり、数年後の黒字化を見込む。近い将来、北海道でもブドウ栽培とワイナリーの開設を夢見る。九十歳までは現役として、畑やワイナリーに立ち続けたいという。

 「脚に筋肉が付いて健康になったし、満たされた気持ちで暮らせている。昔の仲間たちと一緒に働けるのも幸せ。六十五歳を過ぎても、行き場所と目的がなきゃダメだ」と思っている。(宮本隆康)

<たかはし・まなぶ> 北海道猿払村出身。28歳で北海道大学で工学博士の学位を取得した。1983年、通産省工業技術院地質調査所(現在の産業技術総合研究所)に入り、岩石や岩盤の室内力学試験を担当した。

 

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